1月から放送中の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(NHK)の主人公となっている、江戸時代の出版人・蔦屋重三郎(つたや・じゅうざぶろう、通称:蔦重、1750〜1802)。その活動を紹介する展覧会「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」が、4月22日〜6月15日に東京国立博物館 平成館で開催される。
このたび報道発表会にて発表された展覧会の見どころを紹介する。
1750年に生まれ、江戸時代後半に差し掛かろうとする頃に貸本業から身を起こした蔦屋重三郎。喜多川歌麿、東洲斎写楽といった浮世絵師を世に送り出し、様々な分野を結びつけながら敏腕プロデューサーとして出版業界に新規軸を打ち出した。
本展ではその活動を見つめながら、天明、寛政期(1781〜1801)を中心に、江戸の多彩な文化を紹介。蔦重が手がけた版本や、浮世絵黄金期と呼ばれる18世紀末の浮世絵の名作など、約250件の作品を通して、彼が作り出した価値観や芸術性がどのようなものであったのかを探る。
報道発表会に登壇した東京国立博物館副館長の浅見龍介は、「不安定な社会情勢のなかで時流をつかみ、人や本、そして時代を作り上げるその存在は、まさに江戸のメディア王というふうにふさわしいでしょう」と蔦重を評し、「ドラマ内の蔦重のべらぼうな活躍ととともにお楽しみいただけると確信しています」と展覧会をアピールした。
あわせて「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」で主演を務める横浜流星が本展の音声ガイドナビゲーターを、喜多川歌麿役を演じる染谷将太が広報アンバサダーを担当することも発表された。
ここからは「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」の時代考証チームにも参加している、東京国立博物館学芸企画部長・松嶋雅人の言葉をもとに、展覧会の概要を紹介する。
本展では蔦重が亡くなるまでの四半世紀にわたる活動の全体像を時系列で追っていく。当時斜陽であった吉原のプロモーション活動として企画を打ち立てた様々な出版物と浮世絵の数々、さらには大河ドラマと連動した江戸の街の再現展示などが見どころとなる。
展示は3章構成となり、第1章は蔦重が生まれた吉原に関わる出版物を中心に紹介。蔦重の出版人としての活動は、幕府公認の遊郭である吉原の情報誌《吉原細見》の出版に携わるところから始まった。
ここでは、蔦重が企画・出版し、当時の人気絵師であった北尾重政・勝川春章が遊女たちの姿を描いた《青楼美人合姿鏡》や、男女の会話を写実的に記した黄表紙の一点《箱入娘面屋人魚》、蔦重がリサーチャーとして企画に関わったという美人画のシリーズ《雛形若菜初模様 丁字屋内ひな鶴》などが展示される。
《雛形若菜初模様 丁字屋内ひな鶴》は先日の大河ドラマ「べらぼう」の放送でも登場したもので、こういったドラマ内に出てくる作品の実物が見られるのもポイントだ。
第2章では、狂歌が流行した天明期(1781〜89)に、当時の有力な文化人と交流を深め、狂歌の出版物を通して自らそのブームを牽引していった蔦重の活動にフォーカス。「虫」をテーマに詠まれた狂歌に、喜多川歌麿が絵を添えた豪華な狂歌絵本《画本虫撰》といった作品のほか、江戸の文化動向のひとつの象徴として平賀源内の活動にも光を当てる。
蔦重は寛政期(1789〜1801)に浮世絵界に進出する。第3章では、彼が見出した絵師たちの代表的作品を一挙展示する。
蔦重の企画出版とされる春画本《歌まくら》や、臨場感を感じさせる構図の《姿見七人化粧》、さらには《婦女人相十品 ポッピンを吹く娘》などの歌麿作品や、浮世絵界に新風を巻き起こした写楽の大首絵などを見ることができる。また半ば専属絵師であった歌麿が蔦屋を去った後に蔦重が押し出した、栄松斎長喜の作品も展示される。
また最後に附章として、天明・寛政期の江戸の街の再現展示が登場。大河ドラマで使われたセットを持ち込み、当時の日本橋近辺を再現するという。「蔦重が関わった作品の数々とともに、江戸の当時の空気感をみなさんに感じ取ってもらえれば」と松嶋研究員。会期中は、前期・後期で展示替えが行われる。
また関連企画として、同会期となる4月22日〜6月15日に同館の表慶館では、「浮世絵現代」展が開催。伝統木版画の表現に魅了された様々なジャンルのアーティストが、アダチ版画研究所の彫師・摺師と協働で制作した「現代の浮世絵」が展示される。出展作家は、草間彌生、横尾忠則、田名網敬一、加藤泉、塩田千春、名和晃平、ロッカクアヤコ、花井祐介、李禹煥、アントニー・ゴームリー、キキ・スミス、N・S・ハルシャ、ニック・ウォーカー、アレックス・ダッジ、ジェームス・ジーンら約80名。
報道発表会には、大河ドラマ「べらぼう」で喜多川歌麿役を演じ、本展の広報アンバサダーに就任した染谷将太が登壇。
松嶋研究員の案内で歌麿をはじめとする絵師の浮世絵を初めて実際に鑑賞したという染谷。展覧会の主題である蔦重の印象については、「人間力があって人と人をつなげていく力を感じる。人間らしさを包み隠さず人々にぶつけていたんじゃないかなと思いますし、本当にエネルギーのある力強い方なんだろうなと感じました」と述べる。
また自身が大河ドラマで演じる喜多川歌麿については、「作品を見たり、自分がこれから演じさせていただくこともあわせて想像すると、人の痛みがわかる方なんじゃないかと思いました」とコメント。「悲しみや悩みを抱えているモデルが目の前にいたら、同じ感情が自分の中でも起こりながら筆を持っていたんじゃないか。表面的な美しさだけを筆にのせるのではなく、人の内側から出てくる美を表現される方なのではないかと想像しています」
そして本展については「もともと自分は江戸の世界を遠いものと感じていたのですが、きっと(展覧会によって)身近に感じられるんだろうなと思った。その文化は確実にいまにつながっていて、その文化を自分も役者という仕事で表現をしている。それが地続きに感じられるのではないかと思うので、自分も楽しみたいです」と期待を寄せた。
あわせて展覧会オリジナルグッズの一部も公開。蔦重が出版した黄表紙《見徳一炊夢》のぬいぐるみや、写楽が描いた大判錦絵《三代目大谷鬼次の江戸兵衛》のぬいぐるみ、歌麿が描き、蔦重が売り出した錦絵《山姥と金太郎 盃》の金太郎どんぶり、イラストレーターWALNUTとコラボしたトートバッグなど、ユニークなグッズが制作されている。
また本展と、特別展「江戸☆大奥」(7月19日~9月21日、同館平成館)、「イマーシブシアター 新ジャポニズム ~縄文から浮世絵 そしてアニメへ~」(3月25日~8月3日、同館本館特別5室)のセットチケットも限定販売される。