公開日:2023年11月22日

絵からダンスが生まれる瞬間|エスパス ルイ・ヴィトン大阪でダンスワークショップ「Dance creation from paintings(絵から生まれるダンス)」を開催しました!

ダンスパフォーマー / 振付家のホナガヨウコと、色彩豊かな絵画の空間で身体を弾ませる1日限定の体験

絵画空間で身体表現のワークショップ開催

11月3日文化の日、シモン・アンタイ「Folding」展を開催中のエスパス ルイ・ヴィトン大阪で、ダンスパフォーマー / 振付家のホナガヨウコさんを講師に迎え、1日限定でダンスのワークショップをTokyo Art Beat主催で開催しました。

長くはない時間の中ででしたが、参加者のみなさんは大阪や京都、兵庫、奈良など関西圏のほか東京からも何人も駆けつけてくださるなど盛況なワークショップとなりました。独自の技法を持つ絵画作品を題材に、身体を使って解釈して表現をするという、希少な体験を振り返ってフォトレポートします。

巨大な絵画作品9点が並ぶ空間で、身体表現に取り組もう、というエスパス ルイ・ヴィトンでは初の取り組みとなりました。ふだんはEテレの番組出演やMVやCMでの振り付け、そしてワークショップも親子向けから俳優向け、企業向けまで幅広く行うホナガさん。軽妙な進行での司会のなか、エスパス ルイ・ヴィトン、さらにはフォンダシオン ルイ・ヴィトンの説明から導入が始まります。

ウォームアップと距離を縮める自己紹介から

まずは準備体操から始めます。肩や股関節の可動域を広げるように、息をしながら念入りにウォームアップ。絵を見る前なのにカラダの準備、という意外な体験です

体を温めたあとは、それぞれに自己紹介タイム。たんに名前を言うだけでなく、周囲に支えられ踏ん張りながら声を出すことで、互いの身体的・精神的な距離も近づけていきます。

そしていよいよ、作品との対面です。

折り畳みの技法を生み出したアンタイの初期のシリーズの第1室から始まります。初めてエスパス ルイ・ヴィトン大阪に来る方や、初めてアンタイの作品を見る方が多かったこともあり、作品の大きさに息をのみながらも、解説に聞き入ります。

展覧会の詳細はフォトレポートをご覧ください。

折り畳みの技法をカラダで「実演」する

ここでおもむろにキャンバス地の切れ端を取り出すホナガさん。

なんと、自らアンタイの作品の折り畳みの技法を真似して、キャンバス地を自分で折って塗る実験をしてみたとのこと。ところが思ったより生地が固く、実際のアンタイの作品のようにはうまくいかなかったよう。

参加者は普段遠くから見るばかりのキャンバスの実物を触ることで、さらに作品の精巧さが垣間見えたようで、現代美術のマスターピースともすこし距離が縮まっていました。

一人ひとりカラダを折り曲げられたキャンバスに見立てて、クシャクシャと縮めていきます。思い思いのスピード、曲げ方で。そして戻るときもシワが残ったキャンバスをイメージします。

次は3人ひと組のグループになり、お互いに関節や体の部位を折り曲げていきます。どこを押すと、どう相手が縮んでいくのか、姿勢を保てるのか……みなさん戸惑いながらも押し合いながらクシャクシャと折りたたんでいきます。

このグループでの動きは、自分の意志ではなく人に動かされることで可能性が広がっていくようにしていました。アンタイがキャンバスに賭けたであろう、折り畳みの技法の偶然性と重ね合わせた取り組みになっているわけです。

技法から発想を得て、動きに「しばり」をかける

第2室では、シモン・アンタイの巨大な後期作品が並び、第1室とは雰囲気の異なる空間になっています。折り畳み=「Folding」の技法がより顕著に、明確なリズムも生まれています。

この制作方法をゲームのルールのような感覚に見立てて、ホナガさんは動きに変換し「しばり」をかけることを提案します。

まずは2人組で握手をしたまま踊ることに。

手をつなげているだけで一見動きづらそうですが、回転する、上下に動く、逆に抱きついてしまうなど意外と動きの幅が生まれました。

足だけをつけたまま、肩だけをつけたまま、さらには頭をつけたまま回転したりと、動きに制限をかけながらもそこを起点とした新しい動作が次々と。

その後はリズムに乗せて、カラダ全体のポーズで絵合わせをするような対戦ゲームも。これも前の人の動きに合わせて次の動作が変わる、という自分では次のポーズを制御できない「しばり」のあるものになっていました。

参加者全員で「平面作品」に

そしてシモン・アンタイの後年の作品《Sans titre #503》の一部にカラダをなぞらえ、床に参加者全員が順番に「平面作品」になりきるフィナーレへ。「Folding」展にもうひとつの作品が加わった瞬間になりました。

汗ばんだ運動のあと、クールダウンは円陣を組んで軽いマッサージをしつつ、お互いに感想を述べ合いました。

最後は《Sans titre #503》の前で作品の一部になったつもりで集合写真!

非日常である展示空間に、さらに非日常

参加した皆さんからはたくさんの嬉しいフィードバックをいただきました。

1時間という短い時間でしたが、満足度が高かったです。
最初に名前を言ったり手を繋いだり、初対面同士が安心してお互いの身体に触れられるための準備運動みたいな部分が、とても重要だと感じました。あれがあることで、ワークショップが和やかで楽しいものになっていたと思います。
ダンスに苦手意識がありましたが、今回は珍しく素直に自分の身体を扱えた気がしました。絵画を解釈し、自分の身体を通してアウトプットすることは、視覚表現とも共通することだという気づきもありました。
ホナガさんの「ダンスとして行っていなくても、外から見たときにそれはダンスに見えるかもしれない」という言葉がとても印象的でした。

非日常である展示空間に、さらに非日常(作品の前で踊る)を持ち込むようなものは体験としてとても面白いと思いました。

初対面からのアイスブレイクや、ワークの理解や行動のしやすさも準備されていてやりやすかったです。
絵や演劇はやっていて、ダンスや身体表現はやってみたいけどどうしたらいいか分からない状態だったので、今回小さめのステップから徐々に発展させていくように作っていただいてたのが有り難かったです。体が触れることでの体感の変わり方、絵から方法やルールを導き出して身体表現へ転用していく流れが特に興味深く、勉強になりました。

これまで目と頭で鑑賞していたアート作品を、身体を動かしながら感じて、真似して。作品の一部になったような、内側から鑑賞したような気分になりました。聞こえてきた音や、作品の色やテクスチャーを自分の細胞と反応させたいっ…けど、それにはこの身体の自由度が低すぎる(笑)。なんて重たいんだ!もっと解放したい!って思いました。

身体を動かす前に、キャンバスをどうやって、どう色を塗って……と作品制作の過程を紹介してもらったことが、作品と自分との距離をすごく縮めてくれました。

ふだん美術館やギャラリーでは視覚情報と付随するテキストから読み解くことがメインですが、今回はより能動的に、カラダの内と外の両面から楽しめるワークショップになったと言えそうです。

今後こうした発想で、絵を見て考察したアイディアからカラダを動かす、もしくは逆に動作から平面作品に落とし込んでいく表現方法を考えてみると、たんなる美術鑑賞、自分ひとりだけのダンスとは異なる体験になるかもしれません。


サポートダンサー:上田創

ワークショップサポート:若旦那家康(若林康人)

写真:松見拓也(Contact Gonzo)

スタッフ:上野愛英、後藤京華

シモン・アンタイ 回顧展「Folding」
会期:2023年9月28日〜2024年2月4日
時間:12:00〜20:00
※休館日はルイ・ヴィトン メゾン大阪御堂筋に準じます。
会場:エスパス ルイ・ヴィトン大阪
料金:入場無料

https://www.espacelouisvuittontokyo.com/ja/osaka

Xin Tahara

Xin Tahara

Tokyo Art Beat Brand Director。 アートフェアの事務局やギャラリースタッフなどを経て、2009年からTokyo Art Beatに参画。2020年から株式会社アートビート取締役。