アジア最大級のアートフェア、アート・バーゼル香港2024(Art Basel Hong Kong 2024)が3月26日、招待者向けに開幕した。
コロナ禍前までの水準となる242軒ものギャラリー数となる開催に、アジアのアートマーケットの活況への期待が高まる。好材料としては、先日のアート・バーゼルとUBSのレポートにもあったように、中国のアートマーケット総額はイギリスを抜いて世界2位に返り咲いた。リッソン、クリマンズットなど、フェアに初参加するギャラリーが増え、パートナーのUBSはヤン・フードンの映像作品のスクリーニングをM+で提供している。オークションハウスはもちろん、香港市内の美術館も協同してプログラムやパーティーを企画している。
ディレクターのアンジェル・シヤン・ルーはコロナ禍後の「リコネクト」をテーマにしたいと意気込む。「ENCOUNTERS」では、アートスペースシドニーのディレクター アレクシー・グラス・カントーを起用し、トランスカルチュラルなプログラムを用意した。
いっぽうで、中国本土の不動産業界から来る不況もあり、かつ折しも3月23日に施行された香港の「国家安全条例」について、日本政府も含めアメリカなど世界各国が懸念を表明している。明確な規定のないままの規制が文化経済活動を著しく萎縮させるからだ。アート・バーゼル香港のオープンの26日、初の条例の適用が報じられた。
この条例の施行は当然ながら経済活動に限らず、表現としての自由が問われるアートの発表の場にも副次的な影響がないか、注視すべき事態だろう。
ある国際的に展開するギャラリーのディレクターは、「中国本土での検閲は駄目なら駄目で突き返されるからわかるが、香港の場合は基準が不明でどこで目をつけられるかわからない」と不安をこぼす。
昨年はコロナ禍から実質的な海外渡航の「解禁」となったことや、アジア最大のデザインミュージアムM+もアート・バーゼルのVIPと相互に送客するなど、香港全体での機運も高まっていた。
今年はM+のプログラムは「Noir & Blanc」という展覧会が開催されているが、2023年のように草間彌生、中国美術の大コレクション展をふくめ、アート・バーゼルにタイミングを合わせて大規模な記者会見を行うことはなかった。
M+のパーティーも、3000人を招待するという大規模なものだったが、昨年のようなディナーやVIPの交換はなく、ライヴパフォーマンスがメインだった。
とはいえ、M+を含めた開発を統括する西九文化区(West Kowloon Cultural District)では、東京国立博物館館長の藤原誠や、ベネッセアートサイト直島の三木あき子など世界各国20の施設から担当者を招いての国際パネルディスカッションもアート・バーゼルにあわせて行われていて、今後に対しても余念はなさそうに見える。
今回日本のギャラリーの参加が過去最高の数字となっている。
香港市内のFringe Clubというスペースでは、日本からMisako & Rosen、ANOMALYやGALLERY COMMONも参加するオルタナティブ色の強いアートフェア「Supper Club Hong Kong」も始まった。昨年のFrieze Seoulでベストブースを獲得したCYLINDERなど、個性の強いギャラリーがアジア各国から集まっている。
Frieze Seoulの時期に開催されていたOURWEEKも同様に、半分使われていない建物を活用していた。Supper Club Hong Kongと主催・出展を兼任するギャラリーがいることもあるからこその企画だろう。メジャー規模なフェアに対し、どこまで「オルタナティブ」さを発揮できるかもその土地の有り余る力を示していると言えそうだ。
このほか、大舘では「藝術家之夜(ARTISTS’ NIGHT)」として、ツァイ・ミンリャンによる劇場公演や、多数のインスタレーション、コンサートが予定されている。
アート・バーゼル香港の会期は26日、27日の招待日を含め、30日まで。先の条例を受けて渡航をやめてしまったという日本のコレクターもいたと聞いたが、その選択がどう受け入れられる結果になるだろうか。