秋晴れの気持ちいい気候のなか、今年も「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH」が開幕した。会期は10月11日〜11月4日。
今回で17回目を迎える本イベントは「デザインを五感で楽しむ」をコンセプトに、国内外の第一線で活躍するデザイナーや注目のデザインが、東京ミッドタウンに集まる秋の恒例企画。展示、トーク、ライブセッションなどを通してデザインの魅力や可能性を誰もが身近に体感できるイベントだ。
今年のテーマは「つむぐデザイン-Weaving the Future-」。持続可能な社会に向けて、人々をとりまく環境では、テクノロジーやシステムなど、様々変化が起きている。よりよい社会を創るためには、その変化を人々が意識するとともに、ポジティブに受け入れることの大切さが認識されている。本イベントでは、様々なものをより合わせ、“新しいカタチ、コト”を生みだす、未来への変化と人の心をつむぐデザインの力を体感できるものだ。
今回はイベントのなかからいくつかの展示を紹介していく。
芝生広場では建築家のクマタイチが、3つのリングがずれながらつながる、地形のインスタレーション《リレキの丘》を展示。取材時は目下制作中であったが、「施工現場を見せるというのもコンセプトのひとつ。木を用いていることから物々しい雰囲気にならず、どこかパフォーマンス的。みなさん足を止めて撮影してくださる人もいて、こんな状況も公共的になるという発見があった」と話す。完成形は、人々が自由に楽しめるドーナツ型のインスタレーションだ。
広場に設置されるほかのパブリックアートとの調和も見どころの本作の注目ポイントは、「リレキシール」という、体験者がそれぞれどんな過ごし方をしたかを示す24種類のシール。「話す」「登る」「滑る」などの行為がグラフィカルなシンボルとともにシール化されており、体験者はシールを選び、その場の履歴として木の表面に貼り付けていく(土日祝のみ実施)。「カップルが(愛の象徴として)南京錠を公共設備にかける儀式、あるいは神社の境内でおみくじを結ぶようなことができないかと思い構想しました」とクマ。
座ったり、触ったり、寄り添いたくなる。そんな「木の可能性」をも感じられる本作はぜひ完成後にもう一度体験したい。
いつ訪れても、人々がベンチや芝生でくつろいだ様子で過ごす様子が印象的なミッドタウン・ガーデン。ここでは、建築家の津川恵理と、その津川が代表を務めるALTEMYが《都市の共動態》を発表している。
ミッドタウン・ガーデンの微地形を3Dスキャンし、そのデータをもとにコンクリートキャンバスでデザインされたプリミティブなオブジェ群が出現。取材時には子供がすべり台として楽しむ姿が見られたが、見る、撮影する、触る、座る、寝る……といった、老若男女どんな関わり方も歓迎のオブジェ群だ。
「ALTEMYのこれまでの活動に共通するコンセプトは、都市空間や社会に対していかに人の欲望を炙り出せるかということ。今回のインスピレーション源は自らがプレイヤーになり、道具や身体を介入させ都市を変容させるスケートボードなどのアーバンスポーツです」と津川。今回初めて用いたというコンクリートキャンバスは水分を吸収すると柔らかくなり、乾くと硬度を増す素材(展示は雨天中止となる)。その柔軟性が、3Dスキャンした微地形の立体化を実現している。
同じくプラザB1 メトロアベニューでは、ヴィジュアルデザインスタジオのWOWが《InForms》を展示中。キーワードは「鑑賞」という体験。レアメタル産出量・世界人口の2つのテーマに焦点を当て、データから生成した造形・ヴィジュアルを用いた映像作品と、それをフィジカルに派生させた作品群を展示している。
いずれの作品も情報を独自にヴィジュアル化しているが、レアメタル産出量は「infoTexture」という概念で、レアメタルの生産量を大小入り混ざった鉱物のヴィジュアルに変換。「絵を見るような体験から情報に興味を持ってもらう流れを目指した」と担当者。
いっぽうの世界人口は「infoSculpture」の概念で、家具のような造形に落とし込んだ。「複雑なデータを空間に置いたらどんな質感になるか」の試行だという。一見するとあくまで洗練された造形のランプシェードだが、その裏に思わぬデータが隠されているのが意表を突く面白さだ。
デザインオフィスのnendoは、今春行われた「TOKYO CREATIVE SALON 2024」内、赤坂サカス広場で行ったインスタレーション《ヤワラカサカ》をアップサイクルして生まれたソファを展示中だ。「柔らか」「赤」「坂」の要素をもとに、昼間は遊具、夜は交流の場となった《ヤワラカサカ》は、トーンが異なる5種類の細長いクッションで構成。今回、そのクッションをほどき、「梅結び」という水引きなどに使われる結び方を応用した編み方を施した。実際に座ってみるとふかふかと柔らかくリラックス効果は絶大。人と人を結び、その後は家具へ結び直され、多様な価値観を「結ぶ」ことが願われている。
東京ミッドタウンのプラザB1 メトロアベニューでは、「TOKYO MIDTOWN AWARD 2024 EXHIBITION」が開催中。才能あるデザイナーやアーティストとの出会い、応援、コラボレーションを目指すもので、デザインコンペ・アートコンペの2部門を設け、幅広く作品を募集するこのアワード。デザインコンペは倉本仁、篠原ともえ、菅野薫、中村拓志、山田遊、アートコンペは金澤韻、永山祐子、林寿美、ヤノベケンジ、脇田玲が審査員を務めた。
今年は計1767点もの応募作品が集まり、デザインコンペのグランプリは福田雄介《トイ文具》が受賞した。《トイ文具》は乳幼児期から就学期以降まで、人の成長に合わせて役割を変えられるプロダクトで、長く大切に使い続けたくなるようなアプローチが提案されている。
アートコンペのグランプリはさとうくみ子《一周まわる》に決定。作家が立体作品《相棒》とそのケースを背負い歩き回り、適したところで相棒を取り出し、地点Aから出発しその場に戻るまでを記録するという作品だ。
グランプリを含め、両部門で受賞・入選した14点(デザイン8点、アート6点)は11月10日まで、東京ミッドタウンのプラザB1 メトロアベニューにて展示される。会場では、審査員の篠原ともえがデザインしたトロフィーも展示中。会期中には、来街者の一般投票で人気作品を選出する「オーディエンス賞」も実施されるため、気になった作品はぜひ投票してほしい。
世界中からインテリア、アート、ファッション、テクノロジーなど多彩なジャンルをリードする才能が集結し、都内各所で展示を行うDESIGNART TOKYO。東京ミッドタウンでは、「つむぐデザイン-Weaving the Future-」のテーマに寄り添う3組のクリエイターが作品を展示している。3組全員がTOKYO MIDTOWN AWARDの歴代受賞者だ。
AAAQの《Visible Stress》は、「光弾性」と呼ばれる現象と真空成形の技術を利用した、光のテクスチャを鑑賞する作品を発表。使い捨てのお弁当容器の蓋など、ありふれたものがこれらの現象を通して多様な煌めきを見せる。身の回りに潜む見えざる「美しい力の世界」を想像するきっかけをくれる。
竹下早紀の《Eeyo》は、形も色も様々で楽しい12脚の椅子。世界一軽い木材として知られるバルサ材を染色し、200度近い熱風を当てて色を変化させ、グラフィカルに展開した。水を吸う針葉樹は色が染まりやすいが、熱風によって濃い色は薄く、独特の風合いになるのだという。
若田勇輔の《RE 47 CRAFTS》は、47都道府県のご当地の果物や食品の廃材をアップサイクルし、新たなプロダクトに生まれ変わらせるプロジェクトだ。自然素材と食品を混ぜることで作られた石のような素材、あるいは紙を作り、ずんだからこけし(宮城)を、九条ネギからうちわ(京都)を作るなど、意外な転換によって各地方の文化と可能性を知るほか、新たなスタイルのサステナビリティも予感させる。
これまでに紹介した作品以外にも、イベントが盛りだくさん。10月18日には「DESIGN TOUCH」「DESIGNART TOKYO」が共同で企画する1日限定の「CREATIVE PUB “GRADATION”」が登場。グラフィック、建築、ファッション、プロダクト、インテリア、アート、メディア、ビジネスなど様々な分野で活躍する約20人がコネクターとして参加して、集う人々が交流する時間を作る。時間は19:00~24:00、料金は2000円(税込、ドリンク付き、現金のみ)、当日受付。
10月24〜27日には「DESIGN TOUCH 2024」の参加クリエイターをはじめ、多彩な顔ぶれによる10のテーマのトークセッション「TALK SALON」開催。建築家、デザイナー、キュレーター、スタイリスト、編集者など、最前線で活躍するクリエイターの思考や最新のデザイン潮流などを学べる機会となる。こちらは無料、Peatixより事前申込み制。
そのほか、10月20日には《リレキの丘》で音楽家・アーティストの蓮沼執太の1日限りのライブセッションを開催。会期を通して様々な企画が用意されているため、公式ウェブサイトをチェックして気になる展示やイベントを訪れ、デザインの力で未来につながる想像力を刺激しよう。
野路千晶(編集部)
野路千晶(編集部)