公開日:2025年1月16日

布施琳太郎の新アートプロジェクト「パビリオン・ゼロ」とは? 参加者も募集開始。大阪万博2025の年に気鋭の作家が見せる世界

2月開催の「市外劇」ツアー、3月のプラネタリウムでのイベント、新アート雑誌刊行などからなるプロジェクトを発表

布施琳太郎 記者会見にて 提供:CCBT

気鋭のアーティストが仕掛けるアートプロジェクト

1月15日、東京・渋谷のシビック・クリエイティブ・ベース東京 [CCBT]で、アーティストの布施琳太郎「記者会見『パビリオン・ゼロ』プロジェクト」を実施した。本会見は、複合的な企画である「パビリオン・ゼロ」について、企画者の布施が自ら「記者会見」の形式をパフォーマンス的に演じながら説明・発表するもので、企画概要やロゴマークなどが発表された。

また続く第二部では、落合陽一と椹木野衣をゲストに招き「日本の大地=根拠(ground)とはなにか?」と題した座談会が開催された。

落合陽一と椹木野衣を招いた座談会「日本の大地=根拠(ground)とはなにか?」の様子 提供:CCBT

「パビリオン・ゼロ」とは?

「まったく新しいアートプロジェクトを3つ発表します。私のこれまでの活動はこのためのものでした」との前口上から始まった会見。第16回芸術評論募集(美術出版社)をはじめとする評論活動から、展覧会「惑星ザムザ」の企画、個展「新しい死体」など、ここ10年ほどの自らの仕事を紹介し、一連の活動は一貫してiPhone以降の社会におけるアートの問題をインフラの側面から考え実践してきたものだと説明した。

そして、「パビリオン・ゼロ」とは以下の3つから成るひとつのプロジェクトだと説明。

1、架空の水族園構想 葛西臨海公園
2、プラネタリウムにおける観測報告
3、新たな美術雑誌の刊行

メインヴィジュアル

このプロジェクトの目的として、会見では以下2点が示された。

1、日本の「大地=根拠」を問う
プレートテクトニクスと埋立地は、たんに物理的な大地(ground)であるだけでなく、日本の思想的根拠(ground)である。葛西臨海公園はその中間的存在だ。

2、拡張されたアース・ワークの実践
20世紀における最もアクチュアルなアートはランドアートに思えてならない。
そこでXR表現を含めたツアー型展覧会をバーチャルなアースワーク、つまり拡張されたアースワークとして批評的に実践し直す。

本プロジェクトのためのロゴマークの意匠設計は、デザイナーの八木幣二郎が担当。布施からは、胡蝶の夢やバタフライ・エフェクトといったイメージとともに「蝶々のような雰囲気」をリクエストしたという。3DCGモデルをもとに被写界深度の遠近で蝶が舞う姿を表現した。

ロゴマーク

プロジェクトを構成する事項の詳細を見ていこう。

1、市外劇=ツアー型展覧会「パビリオン・ゼロ:空の水族園」
葛西臨海公園を舞台に、鑑賞者の参加型ツアーを実施。参加者はXRのためのヘッドマウントディスプレイを装着し、実際の景色とオーバーラップするパフォーマンス、作品展示などを鑑賞する。日程は2月8日、9日の2日間。

記者会見にて、パフォーマンスのイメージ

葛西臨海公園は、先日死去した建築家の谷口吉生が手がけた建築がある場所。ここで布施は「そらの水族館」「カラの水族館」というイメージを重ね合わせた「空の水族園」をテーマに、想像力を駆使してツアーを企画する。寺山修司の「市街劇」を参照しつつ、都市の外側=葛西臨海公園を舞台にする「市劇」として構成される。
ツアーガイド、企画、演出、脚本は布施琳太郎、XR設計はJackson KAKI、XRコンテンツ制作や展示は布施のほか、米澤柊、小松千倫、板垣竜馬、涌井智仁、布施琳太郎が手がける。参加者は抽選制で、申し込み期間は1月15日(記者会見終了後)〜1月24日。詳しくは公式サイトを見てほしい。

2、全天球上映「観察報告:空の証言」
上記の市外劇では参加者の人数が制限されるぶん、その経験をより多くの人と共有するイベントがコスモプラネタリウム渋谷で開催される。日程は3月15日、全3回で事前申込制。

3、雑誌『ドリーム・アイランド』
本プロジェクト内で新たな美術雑誌を刊行。特集は「大地=根拠(ground)」。限定500冊配布とPDF版も予定しているという。
雑誌刊行に至る問題意識として、「批評や言説そのものよりも、そうしたものの足場がないと感じている」という布施。テキストが一次資料になっているかを重視し、人工知能にはまだ学習することができない、書き手によって蓄積された生の声が詰まった内容になるという。
記者会見での布施琳太郎+落合陽一+椹木野衣の対談の様子が収録されるほか、マンガ『チ。-地球の運動について』の作者・魚豊のインタビュー、数名の筆者による寄稿を収録する。

また、資料展示「パビリオン・ゼロの資料室」も3月11日〜23日にCCBTにて開催する。

「EXPO 2025 大阪・関西万博」が開催される2025年。これに先駆けてアーティストが見せる「パビリオン」はどんな未来を感じさせるのか、期待したい。


梅沢和木×布施琳太郎×GILLOCHINDOX☆GILLOCHINDAEインタビュー:「スーパーフラット」以降の日本現代アートの20年

1. 市外劇=ツアー型展覧会「パビリオン・ゼロ:空の水族園」
葛西臨海公園でXR体験、パフォーマンス、作品展示などを展開
日時:2月8日、9日10:00~/13:30~(各回2時間程度)
会場:葛西臨海公園(東京都江戸川区臨海町6丁目2)
定員:各回20名程度(全4回・事前予約制)※申込者多数の場合は抽選
参加費:無料
申込期間:2025年1月15日記者会見終了後~1 月24日

※落選者、非予約者も作品展示やツアーの様子を観測することができます

ツアーガイド、企画、演出、脚本:布施琳太郎
XR設計:Jackson KAKI
XRコンテンツ制作:米澤柊、小松千倫、布施琳太郎
展示:米澤柊、板垣竜馬、涌井智仁、布施琳太郎

アートディレクション:八木幣二郎、酒井瑛作
テクニカルディレクション:村川龍司(arsaffix)、イトウユウヤ(arsaffix)
パフォーマンス:黒澤こはる、倉知之介、雨宮庸介(形式提供)、米村優人、青柳菜摘、田中勘太郎
記錄撮影:竹久直樹
制作進行:坂ロ千秋、加藤夏帆(TASKO)、島田芽生(CCBT)
主催:シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT](公益財団法人東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京)

2. 全天球上映「観察報告:空の証言」
「パビリオン・ゼロ:空の水族園」を映像素材に、「かたり」と「映像」によるプラネタリウム空間での全天球上映
日時:2025年3月15日(土)14:30~/16:00~/17:30~
会場:コスモプラネタリウム渋谷(渋谷区文化総合センター大和田12F)
定員:各回100名(事前予約制)
参加費:無料
申込期間:1月15日(水)記者会見終了後~上限に達し次第終了
かたり部、企画、脚本、映像編集:布施琳太郎
音楽:小松千倫

3. 雑誌『ドリーム・アイランド』
アーティスト、建築家、漫画家などの寄稿文、対談をあつめた雑誌刊行
公開:3月15日予定
編集:布施琳太郎、酒井瑛作
デザイン:八木弊二郎
寄稿:伊藤道史、井上岳、布施琳太郎、水野幸司、村井琴音、米澤柊
対談:布施琳太郎+落合陽一+椹木野衣、布施琳太郎+魚豊

福島夏子(編集部)

福島夏子(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集長。『ROCKIN'ON JAPAN』や『美術手帖』編集部を経て、2021年10月より「Tokyo Art Beat」編集部で勤務。2024年5月より現職。