ファッション性や音楽性、そのカリスマ性も含めて、世界の第一線で活躍し続ける、あ~ちゃん、かしゆか、のっちの3人組ユニットPerfume(パフューム)。彼女たちがジャケット、MVやライブなどで実際に着用した衣装を展示する、初の大規模衣装展「Perfume COSTUME MUSEUM(パフューム コスチューム ミュージアム)」が兵庫県立美術館で、2023年9月9日〜11月26日に開催される。
会場となる兵庫県立美術館は、これまで「コシノヒロコ展ーHIROKO KOSHINO EX・VISION TO THE FUTURE 未来へ」や「ミナ ペルホネン / 皆川明 つづくmina perhonen」などファッション系の展示を過去にも積極的に行ってきた。今回はクリエイターではなく、Perfumeというユニットに集結した衣装技術に注目した展示となっている点が特徴的だ。「まるでコンサート会場にいるかのように、身体に迫ってくるような刺激的な展示になっている」と兵庫県立美術館館長の林洋子は語った。
今回の展覧会は、先駆的なファッション雑誌としてファンを集めている『装苑』が編集した『Perfume COSTUME BOOK 2005-2020』(文化出版局、2020)が起点となっている。冊子に掲載されたPerfumeのメジャーデビューから2020年までの衣装群は大切に保管され、最終目標ともいえる今回の展示会へと結びついた。
展覧会のメインヴィジュアルは、『装苑』の表紙を長く手掛けているグラフィックデザイナーの吉田ユニが手がけた。今展覧会のためのオリジナルだ。メンバーが身にまとっているのは紙の衣装。アナログとデジタルを組み合わせるクリエイティブを行う吉田は、Perfumeのイメージである幾何学や三角形をモチーフに用いた。
記者内覧会では、Perfume3人が登場。「衣装は、時代を一緒に戦ってきた、分身のような存在。美術品のように扱い展示してもらえて、感慨深い」(のっち)、「飾られた衣装を見ると、様々な記憶が回想されて、込み上げてくるものがある」(あ〜ちゃん)、「衣装を長期間保管してくださっていることに、愛を感じた」(かしゆか)と、本展覧会についてそれぞれコメントを述べた。
それでは展示について紹介していきたい。展示は4部構成。1章(2005年~2011年)、2章(2012年~2015年)、3章(2016年以降)とPerfumeの衣装の変遷を時系列で分け、4章ではステージ衣装とメンバー3人が本展覧会のために選んだお気に入りの衣装が展示されている。
※写真撮影は4章のみ可能。1章〜3章の衣装については、現地で目に焼き付けてほしい。
1章「近未来型の挑戦者」は、メジャーデビューから初期の衣装が並ぶ。デビュー曲「リニアモーターガール」の頃、まだ3人は高校生だった。Perfumeのイメージを決定づけたのは、当時の衣装を数多く手掛けたスタイリストの内澤研だ。当時の流行色のマスタードで統一された「Dream Fighter」の衣装は、あ〜ちゃんに膝丈、かしゆかにミニ丈、のっちにパンツスタイルを提案し、今に繋がる3人の衣装の基本形を作り上げた。この時期は、衣装は既製服が使用されていたため、衣装は憧れの対象であるPerfumeのファンをつなぐツールにもなっていた。
続く2章「止まらない変化」では、Toshio Takeda、三田真一が衣装デザインを手がけはじめた時代だ。3人を象徴する三角形や幾何学模様のデザインが、独自の未来的なイメージを作り上げていく。プリーツの広がりや踊ったときの揺れ方、ボリュームの変化によって踊る身体に多面性が生まれていく。クリエイティブ集団・Rhizomatiks、振付家のMIKIKOとの連携もこの頃から始まった。
映画やドラマなどを通してPerfumeの楽曲は、さらに多くの人に届くようになる。3章「『未来』を超えて」。2016年頃より立体的な曲線やドレープが構造に組み込まれるようになり、これまでのグラフィカルなデザインやミニ丈という衣装の定型が覆されていく。楽曲『TOKYO GIRL』で使われた衣装は、未来のエレベーターガールをイメージしたもの。エレガントなデザインに金属パーツが加わり、独創性の高い衣装となっている。
ライブ衣装が集まった4章「ステージに立つの」。3人のライブ映像を背景に、ステージ衣装が並んでいる。遠方からも目立つように、派手なカラーやより奇抜なデザインが揃う。3人とも必ず2回はフィッティングをし、複雑な構造の衣装でも踊りを妨げないかをチェックしているという。
「わたしたちのお気に入り」コーナーは、「自分たちで思い出の衣装を選びたい」というメンバーの強い思いで実現。それぞれのお気に入りのワードローブがコメント付きで展示されている。
Perfumeの衣装に使われている素材は、光沢感のある生地や反射素材など、特殊なものが多い。サテン、ベロアなど多生地の組み合わせとユニークな色使い、そしてメンバーそれぞれの個性を生かすための細部に至るデザイン性の高さと機能性の高さに気付かされる。Rhizomatiksが制作した「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」に出演した際の衣装は、写した光がそのまま反射する素材だった。着たときに少しでも軽いようにと、素材にパンチングで穴が空けられていたのはリアルだった。ぜひ近づいて、穴が空くほど見てほしい。
1着を作り上げるのに、最低240時間はかかるという。多くのクリエイターが関わり丁寧に作り上げられた衣装は、舞台で歌い踊る彼女らを彩るだけでなく、それそのものが舞台空間上の重要な要素であり、芸術作品だ。ユニットの粋を超えて、大プロジェクトともいえるPerfumeという存在を、衣装という側面から確認することができる希少な機会となりそうだ。