公開日:2019年12月10日

まもなく閉幕。「岡山芸術交流2019」の見どころをおさらい

ピエール・ユイグ、マシュー・バーニー、ティノ・セーガル、エリザベス・エナフら現代アートを牽引する18組が世界から集結

歴史的建造物や日本三名園「後楽園」などが中心部にあり、街を歩けば歴史と文化を色濃く感じることができる岡山市。ここで、3年に1度の国際現代美術展「岡山芸術交流2019」が開催中です。今回はアーティスティックディレクターにピエール・ユイグを迎え、「IF THE SNAKE もし蛇が」のテーマで9ヶ国から18組のアーティストが参加。岡山城、廃校、美術館をはじめとする7ヶ所の歴史文化施設を中心に、徒歩圏内の市内各所でコンセプチュアルな現代アート作品を見ることができます。

この記事では、11月24日についに閉幕する展覧会の見どころを紹介。かけこみや再訪の参考に、気になる作品をいま一度チェックしてみましょう。

ここからスタート。旧内山下小学校

まず訪れたいのは、明治20年に建設された旧内山下小学校。体育館全体を使ったタレク・アトウィ《ワイルドなシンセ》や、ピンクの水面が目を引くパメラ・ローゼンクランツ《皮膜のプール(オロモム)》など、この展覧会にはスケールの大きな作品が集まっているのが特徴。また、江之浦測候所での個展が話題のティノ・セーガルの作品も校庭では見ることができます。「もの」としての作品はなく、観客がある状況を「体験すること」が作品となるセーガルの作品は記録不可のため、ぜひその場で記憶にとどめることをおすすめします。

展覧会会場の一つ、岡山城
展覧会会場の一つ、岡山城

「オロモム」とはローゼンクランツによる造語。プールの液体の色はヨーロッパ人の肌の色を象徴する
「オロモム」とはローゼンクランツによる造語。プールの液体の色はヨーロッパ人の肌の色を象徴する
パメラ・ローゼンクランツ《皮膜のプール(オロモム)》

いまなお残る黒板や備品が懐かしさを誘う空間では、タレク・アトウィ、マシュー・バーニー、ピエール・ユイグ、エティエンヌ・シャンボー、ファビアン・ジロー、ラファエル・シボーニらによる本展最多の12作品を見ることができます。会場冒頭のファビアン・ジロー&ラファエル・シボーニ《非ずの形式(幼年期)、無人、シーズン3》は、会場入口に設置される、小学校に昔からある石彫をベースとした新作。詳細なキャプションがないため、その由来やコンセプトを推測しながら鑑賞を楽しみます。

会場入口の石彫をモチーフとした作品
会場入口の石彫をモチーフとした作品
ファビアン・ジロー&ラファエル・シボーニ《非ずの形式(幼年期)、無人、シーズン3》(2019) Photo=Xin Tahara

アーティスティック・ディレクターでもあるユイグの作品は、校庭のほか2会場でも展示中
アーティスティック・ディレクターでもあるユイグの作品は、校庭のほか2会場でも展示中
ピエール・ユイグ「タイトル未定」(2019) Photo=Xin Tahara

建築ファンも訪れたい林原美術館

旧内山下小学校から徒歩5分ほどの場所にあるのは、ル・コルビュジエに師事した前川國男が設計したことでも知られる林原美術館。ここでは、イアン・チェン、ピエール・ユイグ、フェルナンド・オルテガ、ティノ・セーガルの作品が揃います。オルテガの《untitled》は、ハエが作品に近づき、感電死するたびに短い停電が発生するというもの。本作は林原美術館のほか、旧内山下小学校、旧福岡醤油建物の計3会場にわたって空間に溶け込むように展示されています。

天井付近に見えるのが《untitled》。芝生にあるのは、プレイベントで発表されたヤン・ヴォーの作品
天井付近に見えるのが《untitled》。芝生にあるのは、プレイベントで発表されたヤン・ヴォーの作品
フェルナンド・オルテガ《untitled》(2003) Photo=Xin Tahara

古代作品との共演が楽しめる、岡山市立オリエント美術館

国内で唯一、古代オリエント美術品を専門とする公立の美術館・岡山市立オリエント美術館。この会場では、ポール・チャン、ミカ・タジマ、メリッサ・ダビン&アーロン・ダヴィッドソンの作品が古代の美術品と共存する様子を見ることができます。また、同館の設計者は、林原美術館と同じく前川國男。建築ファンは作品とともに建築を楽しめるはず。

3体のバルーンが風に吹かれ、ダンスを踊っているかのような光景をつくり出している
3体のバルーンが風に吹かれ、ダンスを踊っているかのような光景をつくり出している
ポール・チャン《トリオソフィア》(2016) Photo=Xin Tahara

フロア全体が舞台、岡山県天神山文化プラザ

岡山県天神山文化プラザでは、1階でミカ・タジマが大型の壁面彫刻《タッチ・フォース(からだ)》、地下1階ではエティエンヌ・シャンボーが、特定の人体の熱を生成、測定、表示する作品《熱》などをフロア全体に展開します。2人の作品からは、共通するキーワードとして「身体」が浮かび上がってきます。

床に散りばめられているのは、動物の解剖学的構造を紛砕した骨粉
床に散りばめられているのは、動物の解剖学的構造を紛砕した骨粉
エティエンヌ・シャンボー《ソルト・スペース》(2019) Photo=Xin Tahara

体のつぼの位置に沿って配置された壁面の穴からは強風が吹いてくる
体のつぼの位置に沿って配置された壁面の穴からは強風が吹いてくる
ミカ・タジマ《フォース・タッチ(からだ)》(2019) Photo=Xin Tahara

黒い液体は、機械学習プロセスによって生成された磁性流体
黒い液体は、機械学習プロセスによって生成された磁性流体
ミカ・タジマ《ニュー・ヒューマンズ》(2019) Photo=Xin Tahara

歴史を感じる岡山城と旧福岡醤油建物

今回の展覧会で、歴史的建造物の風情をとくに感じることができるのは、岡山城、そして明治〜昭和初期に建てられた旧福岡醤油建物の2会場。岡山城(廊下門、不明門)では、ポール・チャン、リリー・レイノー=ドゥヴァール、旧福岡醤油建物では、エヴァ・ロエスト、フェルナンド・オルテガがそれぞれ作品を出品しています。レイノー=ドゥヴァールの《以上すべてが太陽ならいいのに(もし蛇が)》は、本展の各会場でバフォーマンスを行った映像作品。すべての会場を巡ったあとのおさらいとしても鑑賞できる作品です。

絵の具の色だけを身につけた女性がさまざまな場所で踊る映像作品
絵の具の色だけを身につけた女性がさまざまな場所で踊る映像作品
レイノー=ドゥヴァール《以上すべてが太陽ならいいのに(もし蛇が)》(2019) Photo=Xin Tahara

街なかでも作品に会える

美術館や施設内だけではなく、街の複数箇所にも作品は点在しています。たとえば、石川公園ではメリッサ・ダビン&アーロン・ダヴィッドソンの《遅延線》が。岡山城そばにある旭川の水を汲み上げ、マンタの形をした人口生命体に動きを与えるこの作品は、医療器具を思わせるパーツからなり、公園に不思議な景色を生み出しています。作品のなかには、見過ごしてしまうほど景観に溶け込んでいる作品もあるため、公式ウェブサイトの会場マップや岡山駅前インフォメーションセンターで配布の地図片手の散策がおすすめです。

緑豊かな石川公園。奥に見えるのが、作品の素材でもある水源で一級河川の旭川
緑豊かな石川公園。奥に見えるのが、作品の素材でもある水源で一級河川の旭川
メリッサ・ダビン&アーロン・ダヴィッドソン《遅延線》(2019) Photo=Xin Tahara

今回の岡山芸術交流では、同じ作家が複数会場で展示をする/同じ作品が複数会場で発表されるなど、さまざまな重複がつくり出されているほか、「身体」「生命」「時間」などが共通するテーマとしてあることが見てとれます。ユイグが「独立した一つの生命体」と定義する、大きな実験場のような本展。閉幕までに、そのユニークな体験を現地で味わってみてはいかがでしょうか。

「岡山芸術交流 2019」
会期: 9月27日(金) 〜 11月24日(日)
開館時間: 9:00 ~ 17:00(入館は16:30まで)
チケット: 一般 1800円、一般(岡山県民) 1500円、大学生・専門学生・高校生 1000円、シルバー(満65歳以上) 1300円、中学生以下 無料
会場: 旧内山下小学校、旧福岡醤油建物、岡山県天神山文化プラザ、岡山市立オリエント美術館、岡山城、シネマ・クレール丸の内、林原美術館、岡山市内各所
ウェブサイトhttps://www.okayamaartsummit.jp/2019/

Xin Tahara

Xin Tahara

Tokyo Art Beat Brand Director。 アートフェアの事務局やギャラリースタッフなどを経て、2009年からTokyo Art Beatに参画。2020年から株式会社アートビート取締役。