公開日:2023年12月13日

「蜷川実花展 Eternity in a Moment 瞬きの中の永遠」(TOKYO NODE)レポート。クリエイティブチームEiM(エイム)として“地上200mの桃源郷”を生み出す

写真家で映画監督の蜷川実花が、撮り下ろしによる映像や写真を起点に10点あまりの新作インスタレーション作品を発表。虎ノ門ヒルズ ステーションタワー内TOKYO NODEにて、12月5日から2024年2月25日まで。

会場風景より、《Intersecting Future》(2023) 撮影:中島良平

虎ノ門ヒルズステーションタワー45FにオープンしたTOKYO NODE。開館記念企画として12月5日に幕を開けた「蜷川実花展 Eternity in a Moment 瞬きの中の永遠」が、2024年2月25日まで開催中だ。会場となるのは、総面積およそ1500㎡に及ぶGALLERY A/B/C。データサイエンティストで慶應義塾大学教授の宮田裕章、セットデザイナーのEnzoらと結成したクリエイティブチームEiM(エイム)として、蜷川実花が作家として過去最大規模のインスタレーションを展開している。

会場に入ると、真っ暗な空間作品で展覧会がスタートする。「いのちが生まれ散っていくサイクルを、様々な時間軸の中で表現した空間展示」の作品タイトルは《残照 Afterglow of lives》。咲く花と枯れた花を対比的に組み合わせ、その両方が備える美しさを静かに称えるような作品が来場者を迎えてくれる。

会場風景より、《残照 Afterglow of lives》(2023) 撮影:中島良平

《Unchained in Chains》、《Breathing of Lives》へと続く。映像作品はいずれもCGでつくられたものではなく、実写撮影によるリアルな被写体をとらえたもの。都市の風景や金魚、植物など、作品ごとにモチーフが関連づいており、展覧会全体を通して蜷川の表現に没入していくような感覚が生まれる。

会場風景より、《Unchained in Chains》(2023) 撮影:中島良平
会場風景より、《Breathing of Lives》(2023) 撮影:中島良平

外の景色と写真作品が融合したような通路を抜けると、最高天井高が15mに及ぶドーム型空間に《Flashing before our eyes》が展開する。コンセプトは「走馬灯を共に見るような映像体験」。床のクッションに寝そべって映像を見上げていると、白昼夢に陥ってしまったような感覚が心地よく、映像のループから抜け出せなくなってしまうはずだ。

会場風景 撮影:中島良平
会場風景《Flashing before our eyes》(2023) 撮影:中島良平

続く《Intersecting Future 蝶の舞う景色》は、映画監督でもある蜷川が映画のセット技術を活用した体験型の作品だ。空間を埋め尽くす花の数々が、ヴィヴィッドな色合いの作品で魅了してきた彼女の視覚表現を具現化した。

会場風景より、会場風景《Intersecting Future 蝶の舞う景色》(2023) 撮影:中島良平
会場風景より、《Intersecting Future 蝶の舞う景色》(2023) 撮影:中島良平

そして、この作品につながる小部屋のようなかたちで、インスタレーション作品3点を展示。造花と生花を組み合わせ、異なる早さで朽ちていく花々を見せることで時間の流れを感じさせる《Fading into the Silence》。真っ白な空間に水と光を映し出す《瞬く光の中で In shimmering light with you》。日常にある瞬間をとらえた写真と、そこに対話をもちかけるネオン菅の言葉を組み合わせ、時間と記憶の交錯を探求した《Luminous Echoes》。写真と映像でどのように時間を表現しているのか。そこに空間体験が加わることで、鑑賞者の視点にはどのような変化が生まれるのか。複数の作品が効果的に組み合わさり、豊かな作品体験が生まれる。

会場風景より、《Fading into the Silence》(2023) 撮影:中島良平
会場風景より、《瞬く光の中で In shimmering light with you》(2023) 撮影:中島良平
会場風景より、《Luminous Echoes》(2023) 撮影:中島良平

床のクッションに横たわって見上げる《Blooming Emotions》に映されている生花の多くは、誰かに向けて育てられた花の数々。昆虫の目を引きつける咲き乱れる花は人々の暮らしも彩り、季節の移ろいを感じさせてくれる。やはりここでも、時間の流れが意識的に表現されていることが伝わってくる。

会場風景より、《Blooming Emotions》(2023) 撮影:中島良平

「胡蝶の夢」を見ているかのような空間体験を生み出す作品が、《胡蝶のめぐる季節 Seasons: Flight with Butterfly》。5層の映像で構成されるこの作品には、夢と現実をつなぐ象徴としてとらえられた蝶の姿が映される。透過性のあるスクリーンには鑑賞者のシルエットも映り込み、空間の人の動きが映像と融合する様子も幻想的だ。

会場風景より、《胡蝶のめぐる季節 Seasons: Flight with Butterfly》(2023) 撮影:中島良平

最後の展示室の《Embracing lights》は、光とそのなかに潜む時間的つながりを探求する作品だ。教会の礼拝室を思わせるベンチが並ぶ空間では、映像と対面することで鑑賞者の心象風景にある「光」につながる記憶、感情が呼び覚まされ、華やかな展覧会を静かに締めくくる。

会場風景より、《Embracing lights》(2023) 撮影:中島良平

暗闇に花が浮かび上がる空間作品で始まり、静かな光に吸い込まれるような映像作品がクライマックスに置かれた「蜷川実花展 Eternity in a Moment 瞬きの中の永遠」。建築、音楽、舞台美術など各分野のプロフェッショナルと共同で、それぞれの作品を手がけた蜷川の求心力、そして、ヴィジュアルアーティスト/演出家としての圧倒的な表現力を体感させるこの展示。没入体験を会場で味わってほしい。

特設ミュージアムショップ 撮影:中島良平

本展に連動した写真展「Eternity in a Moment 瞬きの中の永遠」が六本木の小山登美夫ギャラリーで開催。会期は12月23日〜23年1月27日。

中島良平

中島良平

なかじま・りょうへい ライター。大学ではフランス文学を専攻し、美学校で写真工房を受講。アートやデザインをはじめ、会社経営から地方創生まであらゆる分野のクリエイションの取材に携わる。