9月4日〜8日、ソウルのCOEXにて韓国最大のアートフェア「キアフ・ソウル(Korea International Art Fair SEOUL)」が開催される。
今年22年目を迎えるキアフ。今回は世界22ヶ国から206のギャラリーが集まり、東京、北京、バンコク、ロンドン、マドリード、ニューヨーク、ローマ、ソウル、シドニー、テヘランから36のギャラリーが初参加した。
筆者は4日のプレビューデーに訪れた。2022年から国際的な大型アートフェア「フリーズ・ソウル」が同会場COEX内で同時期に開催されるようになり、この日も両フェアをいち早く見ようと集まったVIPやプレスで賑わった。
注目はやはり過半数を超える韓国拠点のギャラリーのプレゼンテーションだ。クジェギャラリーやギャラリーヒュンダイといった韓国トップクラスのギャラリーはフリーズ・ソウルとキアフの両方に参加。そのほか様々な規模や特徴を持ったギャラリーが一堂に会し、韓国アートシーンの多様な姿を見せていた。
ひときわ目を引いたのが、クジェギャラリーでのキム・ユンシン(Kim Yun Shin)のソロショーだ。キムは1935年に元山(現在の北朝鮮)に生まれ、現在はアルゼンチンと韓国在住。韓国における女性アーティストのパイオニアとして1970年代中後半から活躍してきた。今年はアドリアーノ・ペドロサがキュレーションする第60回ヴェネチア・ビエンナーレにも初参加しており、世界的に注目が高まっている。作家自身がチェーンソーで木から掘り出す木彫の彫刻、絵画は鮮やかな彩色が美しくエネルギッシュだ。
複数のギャラリー関係者が口を揃えて言うのは、キアフには他都市でのアートフェアに比べて若い世代のコレクターが集まってくるということ。近年はソウルにおける不動産の高騰もあり、そうした領域での投資を難しく感じる層の一部がアートの購買に流れているのではないかといったことや、K-POPアイドルなど著名人・インフルエンサーのアート熱も若年層にアートへの関心を広げるきっかけになったのではないかといった推測も聞かれた。
実際にフェアを見ると、韓国の単色画(Dansaekhwa)の伝統を感じる端正な抽象絵画を見せるギャラリーもあるいっぽうで、キャラクターや現代的なアイコンが描かれたポップカルチャー、サブカルチャー的要素を持つ作品もよく見かける。こうした作品は、オーセンティックなアートコレクターのみならず、新しい世代のコレクターの存在を感じさせる。
キアフは新進気鋭のアーティストの紹介にも積極的だ。ギャラリーブースでは「Kiaf Highlights」というセクションを展開。「新しい発見と新鮮な出会い」 をテーマに若手・中堅アーティストを対象とするアワード形式の展示だ。Kiafに参加するギャラリーから推薦された110人の作家から審査員が10名を選出。選ばれたアーティストの作品は、各ギャラリーに「Highlights」の目印とともに展示されている。
日本からも複数のギャラリーが出展した。√K Contemporary(東京)は今年キアフに初参加。「“デジタル×アナログ“⊂メディアアート≠アート」と題したグループ展で、草野絵美、岸裕真、Soh Souen、長谷川彰宏らの作品を展示。
ディレクター亀山いちこによると、フェアでグループショーを展開するのは今回が初めての試みだという。「デジタルやアナログといったメディア的な違いや表面的なことにとらわれて、本質的なところに光が当たりづらくなっているのではないか」という近年のアートの状況への問題意識から出発し、テクノロジーと身体・人間性を接続、またはその境界を模索するような作家たちの作品を紹介する。人工知能(AI)を用いて制作する岸裕真など、最先端かつ哲学的な作品が並ぶ。キアフについては、プレビューが始まったばかりでまだ全体像をつかみきれてはいないが、韓国人のオーディエンスが多く、また予想より他ギャラリーでは大型の作品も目立つ、と所感を語ってくれた。
大阪のTEZUKAYAMA GALLERYは14年振りの参加。ギャラリーの山本彩加によると、コロナ禍が明けて改めて海外フェアを検討するなかで、キアフの評判を聞き参加を決めたという。これから海外で積極的に紹介していきたい作家として、所属アーティストの平野泰子、門田光雅、加藤智大、鈴木淳夫、長谷川学の作品を展示した。
アートフロントギャラリー(東京)は3年連続の参加。角文平、東弘一郎、水戸部七絵らの作品を展示した。様々な芸術祭の企画で知られるアートフロントギャラリーは、いわゆる“売り絵”と呼ばれるようなマーケットで扱いやすい作品を手がける作家ばかりが所属するわけではないが、それゆえブースはユニークだ。ギャラリーの洪汀希によると、韓国でも「アート思考」的な考えの流行があり、投資目的の購入者と、若い世代を中心に自分の収入のなかで買える作品を買いたいというアート好きの両方が存在感を持っているようだ。
またキアフは、あらかじめ作品の購入を決めて訪れる人だけでなく、新たな出会いを求めてくる人も多いという。角文平は2年前のキアフで関係者が作品を見て気に入ったことから、2023年に銀座メゾンエルメスでの展示につながり、また韓国での展示の機会も得るようになったという。
Yumiko Chiba Associates(東京)では今年大阪中之島美術館で回顧展が開催された木下佳通代を展示。また顧剣亨(Gu Kenryou)がソウルのロッテタワーからの眺望をもとにした作品には、多くの韓国のオーディエンスが足を止めるという。
また、キアフは特別展示「Kiaf on SITE:Invisible Transitions」も実施。ソウルのアーバン・アート・ラボの所長スンア・リーがキュレーションを務め、人間とテクノロジーの関係に再考を促す作品を展示した。たとえばヤン・ミンハ(Minha Yang)はブースが並ぶホールに浮かぶ大きなメディア・インスタレーションを展示。観客がウェアラブル・デバイスをつけて鑑賞するVRセクションではボスル・キム(Bosul Kim)、マリーン・バート(Marlene Bart)、ウィンズロー・ポーター&エリー・ザナニリ(Winslow Porter & Elie Zananiri)が作品を展示し、アートにおける新たな表現の一端を見せていた。
福島夏子(編集部)
福島夏子(編集部)