森アーツセンターギャラリーにて、「キース・ヘリング展 アートをストリートへ」展が開催されている。会期は2月25日まで。本展では、キャリア初期の「サブウェイ・ドローイング」や彫刻、ポスターなど、約150点の作品が公開。作家の人生とメッセージを紹介する企画だ。
キース・ヘリングは1958年、ペンシルベニア州生まれ。1980年代に「サブウェイ・ドローイング」シリーズで脚光を浴びると、アンディ・ウォーホルやジャン=ミシェル・バスキアらとともにニューヨークのカルチャーシーンを牽引していく。世界各国での壁画制作やワークショップの開催やHIV・エイズ予防啓発運動、児童福祉活動を展開したことでも知られる。90年、エイズの合併症により31歳の若さで亡くなった。
本展の目玉「サブウェイ・ドローイング」は、1981〜86年のあいだに制作されたシリーズ。ニューヨークのスクール・オブ・ビジュアル・アーツで学んでいたヘリングは、美術館や画廊といった展示空間から公共空間へアートを展開する方法を模索していた。このシリーズはタイトルの通り、地下鉄の駅構内にある空きの広告板にチョークでドローイングした作品群だ。警察が来るまでに素早く描かれたそのコミカルな作品は、すぐにニューヨーカーたちの注目を集めた。しかし、作品はすぐに剥がされ売買されるようになったため、1986年に制作が中止された。本展では、日本初公開となる5点が公開されている。
蛍光インクが使われた下の作品は、1983年にニューヨーク・ソーホーのトニー・シャフラジ・ギャラリーから1983年に出版された版画シリーズ。蛍光インクが用いられた本作は、ブラックライトを当てると発光する。妊婦やダンス、ピラミッドやアンクの十字架など生命に関するシンボルが印象的なシリーズだ。
ヘリングと音楽・ダンスの関係についても注目したい。パンク・ロックの流行がロンドンからニューヨークへと移ってきた1970年代に学生時代を過ごし、友人たちとライブやナイトクラブにも足を運んだというヘリング。アーティストとして活動し始めてからも、制作中はスタジオでつねに音楽を流していたという。
本展では、グレイス・ジョーンズやマドンナらとのコラボレーション作品などが公開。ラリー・レヴァンによる伝説のクラブ「パラダイス・ガラージ」最後の夜を記録したレコードのジャケットも、ヘリングが手掛けている。
「スウィート・サタデー・ダンス」は、黒人のストリートダンスと社交ダンスの誕生300周年を記念したパフォーマンス。その舞台セットをヘリングが手がけているという事実は、彼がブルックリンのコミュニティと強く結びついていたことを示しているだろう。
アーティストとしてはもちろん、アクティビストとしても広く知られているヘリング。メッセージを大衆へ、より広く直接的に伝えるために、ポスターを多数制作した。題材はHIV・エイズ予防から「ナショナル・カミングアウト・デー」(性的マイノリティのカミングアウトを祝福する記念日)、核放棄や反アパルトヘイト、企業の広告まで多岐に渡る。
絵画やポスターというより、マンガに近いような晩年のシリーズも興味深い。17点で構成される《ブループリント・ドローイング》は1980年に制作されたものを、ヘリングが亡くなる直前に版画で再制作したもの。具体的で統一的な解釈は難しいものの、それぞれのコマをつなげて眺めると、性の開放やテクノロジーの進歩、侵略や戦争を示していることに気付かされる。
ほかにもヘリングが来日した際の写真や、オリジナルグッズも多数公開されている。夭折した作家が残した作品とメッセージを包括的に知ることができる本展。ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。