ロンドンのテート・モダンが企画した展覧会「瞬間をとらえる: 絵画と写真の旅(Capturing the Moment: A Journey Through Painting and Photography)」が台湾・高雄市立美術館で11月17日まで開催中だ。本展は今年4月28日までテート・モダンで開催された展覧会の巡回で、近代美術史において絵画と写真の関係を考えるうえで重要な55点の作品が展示されている。
テート・モダンの展覧会が国外に巡回するのは世界初。テート・モダンのインターナショナル・アート・コレクション・ディレクターのグレゴール・ミュアとインターナショナル・アート・アシスタント・キュレーターのベアトリス・ガルシア=ヴェラスコがキュレーションを担当した。
この展覧会では、テート・コレクションから34点、台湾のヤゲオ財団コレクションから21点が出品された。アーティスト達は筆やカメラで「その一瞬」をとらえるだけでなく、儚い現実や人生、歴史、時間を表現として結晶化させる方法をも示している。その方法と考え方に焦点が当てられている。
展覧会の最初のセクション「写真の時代の絵画(Painting in the Time of Photography)」では、写真がもたらした衝撃に呼応して画家たちが開発した新しいスタイルを紹介する。このセクションでは、パブロ・ピカソ《泣く女》、ルシアン・フロイド《Girl with a White Dog》などが展示される。
第3セクション「絵画から写真へ(Painting into Photography)」では、絵画と写真の境界の曖昧さに着目し、ジェフ・ウォールの《A Sudden Gust of Wind (after Hokusai)》が紹介されている。ウォールは、葛飾北斎の木版画の構図を緻密に演出し、100カット以上の写真を撮影し作品を完成させた。
第5セクション「歴史をとらえる(Capturing History)」では、ゲルハルト・リヒターが写真から描いたペインティング《2つのろうそく》に着目したい。一般的に、写真は客観的なイメージ、つまり歴史を考える上で公平な見方を提示ものと考えられがちである。リヒターは写真を使って絵画を描くことで、自身の個人的な経験と歴史的な事実、静物画の伝統的な主題「メメント・モリ」を複雑に絡み合わせた。
暴力や戦争、人間の苦しみは長年芸術表現の主題であるが、ピーター・ドイグの《カヌー=湖(Canoe‐lake)》では映画の表現を参考に暴力を直接描かずに不穏な感覚を伝えている。ドイグは「写真を地図のように使うが、それはトレースではない。私が望む現実の一種に足を踏み入れる手段のひとつに過ぎない」と述べている。
会場最後には歴史と美術史や大衆イメージを同化させて、現在起きている問題を理解する新たな方法を模索するアーティストの作品が集められている。クリスティーナ・クォールズ、ミリアム・カーンらは、テレビニュースやネットのイメージを利用して現代の政治的対立の事例を描いている。
グレゴール・ミューアは報道陣に対し、この展覧会のテーマ「瞬間をとらえる」が次世代のアーティストや今後の美術史においてどのように考えられていくか着目していると述べた。高雄市立美術館は今年創立30周年を迎え、高雄市政府の尽力で30歳以下の若者は本展を無料で鑑賞することができる。オーセンティックとも言えるテーマだが、若い鑑賞者がこの機会に名作に触れ、時間について考える良い機会になりそうだ。
瞬間をとらえる:絵画と写真の旅(Capturing the Moment: A Journey Through Painting and Photography) 展
会期:6月29日(土)〜11月17日(日)
会場:高雄市立美術館
公式ホームページ:https://www.kmfa.gov.tw/English/ExhibitionDetailE001100.aspx?Cond=bbff4e23-c3fc-4d96-a02c-952fc1630c6d