公開日:2024年8月1日

「土浦⻲城邸」が9月より一般公開へ。戦前日本のモダニズム住宅の傑作がポーラ⻘山ビルディング敷地内に移築

建築家・土浦⻲城・信子夫妻の自邸として1935年に建てられた、昭和初期の住宅建築を代表するインターナショナルスタイルの都市型小住宅。1995年に東京都指定有形文化財に選ばれた名建築がこのたびポーラ青山ビルディングに移築された

居間 写真 © 土浦亀城アーカイブズ

戦前日本のモダニズム住宅の傑作

ポーラ・オルビスグループの不動産事業会社である株式会社ピーオーリアルエステートは、2024年3月に竣工したポーラ⻘山ビルディング敷地内に、東京都指定有形文化財(建造物)である土浦⻲城邸(土浦家住宅。以下、土浦邸)を復原・移築した。建築担当は安田アトリエ。

土浦邸 外観 写真 © 土浦亀城アーカイブズ

土浦邸は建築家・土浦⻲城・信子夫妻の自邸として1935年に建てられた、昭和初期の住宅建築を代表するインターナショナル・スタイルの都市型小住宅。1995年に東京都指定有形文化財に、1999年に近代建築の保存活動を行う世界的な組織であるDOCOMOMO JAPANによる最初の20選に選ばれた。

居間 写真 © 土浦亀城アーカイブズ

木造乾式工法によって建てられた戦前の住宅のなかでも、当時の姿をいまに残す希少なモダニズム住宅であり、建築家の故槇文彦も幼い頃この住宅を目にし「非常に新鮮だった」と回想を残しているというエピソードも。1935年の竣工から90年もの⻑いあいだ、戦禍や地震、災害に奇跡的に耐えてきた幸運な土浦邸が、新たなかたちで人々に開かれていく。

玄関 写真 © 土浦亀城アーカイブズ

夫婦でフランク・ロイド・ライトの事務所で修行

土浦⻲城(1897〜1996)は、20世紀前半に日本で数多くのモダニズム建築を設計した建築家。東京帝国大学工学部建築学科に在学中に帝国ホテルの現場の図面作成に携わり、卒業後に妻信子とともにアメリカに渡りフランク・ロイド・ライトの事務所で修行。ライトの事務所での同僚であったリチャード・ノイトラや、ライトの事務所の元所員であったルドルフ・シンドラーから欧州のモダニズムについても多く学んだ。 日本初の女性建築家である信子は、土浦邸の設計にも深く関わっている。

書斎 写真 © 土浦亀城アーカイブズ

未来の日本に向けて表現した住宅の理想形であり、建築家の夢

見どころは、オリジナルの意匠を最大限に保持しながら、安全、快適に見学できる復原。内装・外装ともに、1935年の当初部材を選定し、流通していない当初部材については、可能な限り近い質感のものを採用。工法、ディティールも可能な限り維持し、耐震・防水などの建築性能や空調等の設備性能には現代の技術を採用。オリジナルの意匠性を損なわずに織り込まれた。

寝室 写真 © 土浦亀城アーカイブズ

また、近代建築において大きな特徴となる「白」を、綿密な調査により再現。家具やカーテン、カーペットに加え、家具も当時の写真から図面を起こし、当時の制作技術を理解できる工房や職人を探して復原を実現したという。

さらに、土浦夫妻が使用していた食器などのあらゆる生活用品を、生前使用していた位置に戻し、⻑く大切に住まわれていた温かな生活感を感じさせるよう配慮。これは夫妻から土浦邸を相続した秘書の中村常子が、約20年にわたり夫妻の居住空間にまったく触れずに生活したためできたことだという。

2階のトイレには写真現像のための設備が備えられている 写真 © 土浦亀城アーカイブズ

畳敷きが中心で台所にはかまどを備えていたような昭和初期の一般的な住宅と比して先駆的な土浦邸は、健康的に楽しく暮らせる理想的な住まいの機能をすでに備え、土浦が未来の日本に向けて表現した住宅の理想形であり、建築家の夢が感じられる。システムキッチンの先駆けであるキッチンには各種まな板が引き出しスタイルで備え付けられているなど、ユニークな設えも楽しい。

台所 写真 © 土浦亀城アーカイブズ

現代にも新鮮な息吹を感じさせるモダンな住宅でありながら、90年の時の重みを感じさせる復原は、今後の建築移築のひとつのベンチマークとなりそうだ。

一般公開は9月にスタート。2024年9月2日(月)より予約開始予定となっている。

真っ白なタイル張りの浴室 写真 © 土浦亀城アーカイブズ
女中部屋 写真 © 土浦亀城アーカイブズ
居間を上から眺める 写真 © 土浦亀城アーカイブズ

一般公開概要
一般公開:月に2日・水曜、土曜を予定 1日2〜3回のガイドツアーを実施予定
定員:15名/回
観覧料:1500円/人
予約開始日:2024年9月2日(月)より開始予定
URL:https://www.po-realestate.co.jp/business/aoyama/
https://www.po-realestate.co. jp/business/aoyama- tsuchiurakameki.html

野路千晶(編集部)

野路千晶(編集部)

のじ・ちあき Tokyo Art Beatエグゼクティブ・エディター。広島県生まれ。NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]、ウェブ版「美術手帖」編集部を経て、2019年末より現職。編集、執筆、アートコーディネーターなど。