公開日:2024年9月29日

「森の芸術祭 晴れの国・岡山」レポート。岡山県北部をめぐり、自分を取り囲む自然環境と全身で戯れるアート旅

奈義町現代美術館や鍾乳洞、渓谷などを舞台に、森山未來、川内倫子、坂本龍一+高谷史郎、レアンドロ・エルリッヒ、リクリット・ティラヴァニらが作品を展示。会期は9月28日〜11月24日。

レアンドロ・エルリッヒ まっさかさまの自然 2024 中央は作家

岡山県北部で初の芸術祭が開幕

「森の芸術祭 晴れの国・岡山」が岡山県北部で12市町村を舞台に初開催される。会期は9月28日〜11月24日。アートディレクターは長谷川祐子(金沢21世紀美術館館長、東京藝術大学名誉教授)が務める。

参加アーティストは12ヶ国・地域から42組43名。国外から18名、国内から25名(うち岡山の作家6名)が作品を発表する。

セレモニーにて、参加アーティストと長谷川祐子(前列中央)

開催エリアは津山市、高梁市、新見市、真庭市、美作市、新庄村、鏡野町、勝央町、奈義町、⻄粟倉村、久米南町、美咲町。このエリアは、山陽と山陰を分ける中国山地から吉備高原にかけて広がり、中国山地を水源とする三大河川(吉井川・旭川・高梁川)の上流域にあたる。緑豊かで雄大な自然、旧街道沿いの宿場町や城下町、水運の拠点として栄えた歴史ある街並み、優れた泉質の美作三湯(湯郷温泉・奥津温泉・湯原温泉)などを有し、「瀬戸内国際芸術祭」や「岡山芸術交流」といった芸術祭がこれまで開催されてきた県南部とはまた異なる風景が広がる。

奈義町から津山へ移動中の車窓から

自然の恵みや人々の交流の多様性を象徴するものとして「森」をタイトルに冠した本芸術祭。アートディレクターの長谷川は本展のコンセプトについて「本芸術祭は、その『森』がもたらす『恵み』を芸術の力で未来に向けて活性化することを目的とし、『本当に必要な資本とは何か?』を問いかけます」(公式サイト)と説明する。

今回は2日に渡り行われたプレスツアーを取材し、その見どころをエリアごとにお伝えする。エリアが広範囲にわたるので、作品を見ながら食事や風景、文化を楽しみたい方は、2泊3日ほど滞在するのがおすすめ。また鍾乳洞など足場の悪い場所も会場に含まれるため、歩きやすい靴と汚れてもいい服装推奨。

長谷川祐子

【奈義】レアンドロ・エルリッヒ、磯崎新、AKI INOMATA、森山未來、坂本龍一+高谷史郎

岡山桃太郎空港から車で1時間半ほどで到着する奈義エリアからスタート。奈義町は中国山地の秀峰「那岐山」の南麓に位置し、その雄大な姿を眺めることができる場所だ。

屋内ゲートボール場「すぱーく奈義」では、金沢21世紀美術館のプールの作品で知られるレアンドロ・エルリッヒが作品を発表。5月に長谷川とともにこの地を訪れた作家は、岡山の景観に感銘を受けたという。自然と人間が分離している状況について改めて考え、それらをつなぐものとして橋をモチーフとした作品を制作。「橋は、何かと何かをつなぐ、物事を解決する、自分がいまいる場所を超えていく、ということの象徴」とエルリッヒは語る。

レアンドロ・エルリッヒ まっさかさまの自然 2024 中央は作家

会場の四方には実物の植物が植えられ、天井には人工のクリスマスツリーのような木が吊られており、下部に敷かれたミラーがそれを反射。中央の橋を渡って歩けば、重力を超越した森に囲まれるようなマジカルな世界に包まれる。

レアンドロ・エルリッヒ

その向かいには、世界的な建築家である故・磯崎新が設計した奈義町現代美術館がある。本館は作品と建物が半永久的に一体化した公共建築として世界で初めての体感型美術館。ここでは磯崎新のほか、AKI INOMATA、森山未來、坂本龍一+高谷史郎の展示がある。

奈義町現代美術館

AKI INOMATAはグラスのなかに雲を生成。独自に開発された液体3Dプリンターによって前日の空模様が再現された雲で、なんと飲むことができる。展示室からは美しい空が一望でき、それを眺めながら雲を味わうのは特別な体験だ。

AKI INOMATA 昨日の空を思い出す 2022-
AKI INOMATA

坂本龍一+高谷史郎による時間をテーマにした映像作品は、磯崎のパートナーであった宮脇愛子の彫刻作品の奥に展示され、調和と緊張感が同居する空間を生み出していた。

坂本龍一+高谷史郎 TIME-déluge 2023
磯崎新の展示

奈義町現代美術館から那岐山へとまっすぐに伸び、美しい那岐山を一望することができる「シンボルロード」では、プレビュー初日の夜に森山未來がパフォーマンスを実施。奈義町には江戸時代から伝わる伝統芸能「横仙歌舞伎」があり、森山はこれを学んで三番叟を演じた。

また森山は民話「さんぶたろう」をベースに、奈義町で活動する芸能者とともに、その土地に生きる人々のコミュニティと土着の芸能・文化の関係性を再考する「さんぶたろう祭り」を9月28日に開催。「奈義町の方々を巻き込みまくったイベント」と森山が語る通り、演目の公演に加え飲食を提供する出店も登場、地域の人々が集った。

森山未來によるパフォーマンス

奈義町は、移住や子育てへの支援を充実させた結果、2019年の合計特殊出生率が2.95と全国トップクラスになり、少子化対策の「奇跡の町」と称されているという。豊かな自然に囲まれたこの土地で、世代をつなぎ受け継がれていく生活や文化、芸能がある。

「人から聞いた印象的な言葉として、『祭りは防災である』というものがあります。祭りに向けた準備を行うことで人々の連帯が高まる。つまり文化や芸能がコミュニティの結束を強くする、ということを僕は奈義から強く感じてきました」(森山)

【津山】リクリット・ティラヴァニ、エルネスト・ネト、キムスージャ

奈義町から車で1時間ほどの津山は岡山県北部の中心都市であり、本芸術祭でもっとも作品が多いエリア。江戸時代、津山城(鶴山公園)を中心に城下町が栄え、当時建てられた木造建築と、明治・大正時代に建築された欧風建築が立ち並ぶ特徴的な街並みが残る。

衆楽園(しゅうらくえん)は美しい池泉廻遊式庭園で、5作家が展示を行う。

衆楽園

リレーショナル・アートの代表作家として知られ、「岡山芸術交流2022」でアートディレクターを務めたリクリット・ティラヴァニは芸術祭の作品の一部として「ハレノクニ弁当」をプロデュース。津山市のbistro CACASHIのシェフ・平山智幹と津山市のスーパーマーケット・株式会社マルイが共同で開発したお弁当は、地元食材がふんだんに使われていて美味しい。衆楽園で販売(税込1650円)され、ティラヴァニが真庭市勝山在住の染織家・加納容子とコラボレーションし制作された暖簾が飾られた衆楽園の空間で味わうことができる。(要予約

ハレノクニ弁当
会場風景 のれんはコラボレーターの加納容子によるもの

「津山のいろいろなところへ行き、郷土の料理を食べました。みなさんがアートを見て回るこの地域の食を紹介したいと思いました。衆楽園は津山の真ん中にある小さな森という雰囲気で、ここから得たインスピレーションに加え、この地域のアーティストからもインスパイアされました」(ティラヴァニ)

右からリクリット・ティラヴァニ、コラボレーターの上田舞

衆楽園ではほかに、岡山県津山市在住の太田三郎、岡山県出身の甲田千晴、岡山県新見市に移住した加藤萌といった岡山にゆかりのある作家たち、また京都拠点で日本画の技法を用いて身体と環境の流動的な有り様を描く森夕香が作品を展示している。

太田三郎の展示

中国山地を望む丘陵地に広がる緑豊かな公園「グリーンヒルズ津山」ではリオ・デ・ジャネイロ出身のエルネスト・ネトが大きな彫刻を発表。

エルネスト・ネト

かぎ針編みを用いた本作には、上段にターメリックで染めたコットン、下部にリサイクルしたポリエステルの糸が使われており、鑑賞者は中に入ることができる。作家に促され裸足になると、糸と草の感触が足裏に気持ちいい。伸縮し揺れる構造はダンスがかたちになったようで、そこに入る人々の身体も自然に揺らす。

自分の身体と他者の身体、そして地球の身体をつなぎ直すというのが本作のコンセプトで、「身体の粒子(微細な部分)に近づき、語りかけるということはまさに現代アート」だとエルネスト・ネト。

エルネスト・ネト スラッグバグ 2024 作品の内部の様子

作家はリラックスした雰囲気で、歌を交えながら記者陣にむけて作品を解説。なかでも「これはなに?これはなに?消化する」という歌の一節が印象的で、芋虫が蛹や成虫へと成長するように変容することの大切さや、呼吸、食べたり食べられたりする命について触れながら、作品によって「自分の内側を見るということに、皆さんをお誘いしたい」と語った。

城東むかし町家

江戸時代から近代にかけて整備された町家も会場のひとつ。風情のある街並みのなかにある城東むかし町家では、華道家・片桐功敦が、かつて台所だったところを津山で採れた小麦で覆った大規模なインスタレーションを発表。かまどがあったところには「地元の野菜をお供えする感覚で置いた」(片桐)。《Terroir》と題された本作では、「その土地に根差した食のあり方をさすテロワールという言葉を“風土”と解釈した」という。

片桐功敦 Terroir 2024
片桐功敦

また気鋭のアーティスト八木夕菜のお茶をモチーフにした作品、電子音響音楽の作曲家タレク・アトゥイも展示を行っている。

津山は建築好きにも楽しい街だ。PORT ART&DESIGN TSUYAMAは大正9年に竣工した旧妹尾銀行林田支店を芸術文化の創造・発信拠点として整備した施設で、岡山県指定重要文化財。赤レンガタイル敷きの中庭、木造の本館、石造りの金庫棟などで構成され、大正ロマン期の華やかな建築様式を含むいくつかの様式が合わさった興味深い建築だ。

PORT ART&DESIGN TSUYAMA

ここでは志村信裕が美しい天井に映像を投影した作品や、日本で初めて紹介される物故作家でファイバーアーティストのパオラ・ベザーナの立体作品が展示され、色や光を感じる非常に美しい空間となっている。

志村信裕 beads 2012/2023
パオラ・ベザーナの展示

津山まなびの鉄道館は、鉄道ファンでなくても面白い、扇形の機関車車庫。車両、転車台、蒸気機関車の動輪などが展示されている。韓国を代表するアーティストのキムスージャはこの車庫の窓に光を回折させるフィルムを設置し、差し込む太陽光がプリズムを生み出すサイトスペシフィックな作品を展示。光をとらえる私たちの目と、太陽までを含む私たちを取り囲むエコロジーがともに作用することで、一瞬ごとに変化していく作品が出現する。

津山まなびの鉄道館
キムスージャ 息づかい 2024

つやま自然のふしぎ館は、インパクト抜群のヴンダーカンマー(驚異の部屋)で、津山で必ず訪れてほしい場所。1963年開館、世界各地の動物の実物はく製を中心とした自然史の総合博物館であり、化石や標本など約2万点が常設展示されている。

つやま自然のふしぎ館

目を奪われるのは、所狭しと展示された動物の剥製たちだ。現在はすでに多くの動物の剥製がワシントン条約で規制されていることもあり、これだけの量の剥製がひとつの施設に集まっていることは非常に貴重だ。老朽化も感じられるが、自然の不思議や多様性を見る人に伝えようという館の真摯な熱意が伝わってくる。同時に、動物たちのユーモラスでサービス精神に溢れた表情とポーズなど、思わずつっこみたくなるような要素もあり、独特すぎる味わいと迫力に満ちた場所だ。

つやま自然のふしぎ館

そして本館が示す「自然」には、動物や虫、植物だけでなく、もちろん人間も含まれる。初代館長の森本慶三は開館から1年ほどで亡くなったが、「人体構造をより深く知って欲しい」との思いから自身の身体を展示することを希望し、実際に臓器の一部が人体標本として展示されている。

ここではソフィア・クレスポが、AIによる画像生成を用いて自然や生き物たちの姿を映し出す映像作品を展示している。

ソフィア・クレスポ 危機的な現存 2022

またつやま自然のふしぎ館の目の前にある城下スクエアでは、ジャコモ・ザガネッリが地元の職人と協働したコンクリートの卓球台を設置。卓球をするだけでなく飲食をともにするなど、人々が集うコミュニケーションのプラットフォームとなる。

ジャコモ・ザガネッリ TSUYAMA PING PONG PLATZ 2024 Courtesy of the Artist

作州民芸館には川島秀明の絵画やムハンナド・ショノの砂とロボットを組み合わせたインスタレーション、城西浪漫館ビアンカ・ボンディによる作品など、津山にはほかにも会場と作品がある。街並みや食を楽しみながら作品巡りを楽しみたい。

川島秀明の展示
ムハンナド・ショノ 意味を失うことについて 2024

【鏡野/奥津】立石従寛、ジェンチョン・リョウ

プレスツアーは津山で1泊し、2日目はよりワイルドなエリアを回る。

秋は紅葉の絶景が広がる渓谷のある鏡野町。奥津渓では立石従寛が、ミラー状の立体作品と、様々な生き物の鳴き声などを素材にしたサウンド・インスタレーションを発表。渓谷の美しい景色や川の音と作品が響き合う。

立石従寛 跡 2024

奥津振興センターの屋外にはジェンチョン・リョウの大きな彫刻作品が登場。本作は芸術祭が終わった後も常設されるとのことで、地域の人々が飽きないような作品を目指したと作家。「モチーフはこの地域に住むカワセミで、その内部には地元の植物であるコブシを植えました」(リョウ)。

ジェンチョン・リョウ

【真庭/蒜山(ひるぜん)エリア】川内倫子、上田義彦、妹島和世

続いて岡山県北部の中央に位置する真庭市へ。

GREENable HIRUZEN

観光文化発信拠点施設「GREENable HIRUZEN」は建築家・隈研吾が設計。ここには森の資源とサスティナビリティ、共有をテーマにした作品が集まる。

川内倫子は蒜山(ひるぜん)をはじめ、岡山県北部で撮影した写真を布にプリントした作品や映像を発表。とくに奇祭として知られるはだか祭り(西大寺会陽)は長年撮影してみたいと考えていたそうで、今回許可を得て撮影できて感慨深い、と作家。またはだか祭りに参加する子供たちの姿からは「生の瑞々しさ」が感じられ、その生のきらめきはホタルにも通じる。「私はこれまで様々なところでホタルを撮影してきましたが、今回がいちばんと言えるくらい数多くのホタルを見ることができ、大きな経験になった」(川内)。また裸踊りを撮影しに訪れた新聞社などの撮影のフラッシュと、ホタルの光がイメージとして重なり、「岡山の小宇宙を見せてもらった」とも語った。

川内倫子

ディレクター長谷川が「私のアイドル」と熱く語る東勝吉は、1908年に大分県に生まれ、木こりとして働いたのちに老人ホームで暮らしていた83歳のときから本格的に絵を描き始めた。由布院の風景を描いた絵画には、木や滝などに注がれたまなざしと、作家の身体性やこだわりが隅々まで行き渡る。技法的な稚拙さを遥かに超える、独自のエコロジー観、宇宙観の魅力が詰まっている。

東勝吉の展示
東勝吉グッズも登場。バッグを持っているのはレアンドロ・エルリッヒ。GREENable HIRUZENにはおしゃれなショップがあるのでお土産探しにのぞいてみては

隣の部屋には幾何学的構成で自然や女性たちのいる風景を描く気鋭の作家、東山詩織の作品。世代もスタイルも異なる東と東山の作品が並ぶのは新鮮だが、見事な組み合わせだと感じた。

東山詩織の展示

また写真家・上田義彦は、長谷川からの依頼を受け岡山の原生林を撮影。森に流れる小さな滝のような水を撮影した作品が、自身にとって新境地になったと語る。

上田義彦

また、なだらかな高原に広大な牧草地が広がる蒜山地域は、全国屈指のジャージー牛の飼育地。GREENable HIRUZENの向かいにあるヒルゼン高原センターはレストランのほかショップも充実しているので、ここでお腹を満たしたりお土産を買ったりできる。人気のジャージー牛乳ソフトクリームも美味しいのでおすすめだ。

食後に蒜山酪農カフェ・オレ。ソフトクリームも買ったけど急いで食べてしまい写真を撮り忘れました

勝山町並み保存地区では、妹島和世が手がけた椅子が風情のある町並みに並んだ。父の出身地で自身の本籍があることから岡山県真庭市の観光大使(真庭大使)を務めているという妹島。この椅子も、芸術祭後も残る常設作品になるそうで、「それぞれの街に新しいかたちのパーマネント作品を提案した」と長谷川。

妹島和世 腰掛けているのが《あしあと》(2024)
妹島和世《あしあと》(2024)が並んだ勝山町並み保存地区

この保存地区はもともと出雲街道の宿場町として栄えた場所で、白壁の土蔵、格子窓の商家、古い町並みが残る。それぞれの軒先には様々なデザインの「のれん」が掛かり、歩いて見て回るだけでも楽しい。衆楽園でティラバニとコラボレーションし加納容子が作ったのれんによって、この辺りは「のれんの町」として知られるようになった。

「のれんの町」として知られる勝山町並み保存地区では、家や店の軒先にそれぞれ素敵なのれんがかかっている

女性杜氏「御前酒蔵元 辻本店」という有名なお店もあるので、日本酒好きは要チェック。

【新見/満奇洞・井倉洞エリア】アンリ・サラ、蜷川実花 with EiM

新見市南部にはカルスト台地が広がり、複数の鍾乳洞が存在する。なかでも有名な「満奇洞」「井倉洞」が本展の会場だ。芸術祭で2つも鍾乳洞を巡るというのはなかなかないので、本芸術祭のユニークさが際立つ展示だ。

かつて歌人の与謝野鉄幹・晶子夫妻が訪れ「奇に満ちた洞」と称したことで現在の名称になった「満奇洞」では、蜷川実花 with EiMが展示。青や赤の幻想的な光が全長450mの鍾乳洞を彩り、奥には一面の彼岸花。まさに蜷川実花ワールドといった雰囲気だ。

満奇洞 入口までにかなり急勾配の坂道を登るので心の準備を。歩きやすい格好と靴が必須
蜷川実花 with EiMの展示

そして「井倉洞」は、全長1200m、高低差90mにおよぶ鍾乳洞。筆者も訪れるまでそのスケール感がよくわかっていなかったが、到着するとまずその雄大な景観に圧倒された。そして洞内は様々な奇石や怪石、滝などがあり、急勾配や狭いところも多く、予想以上に歩いて巡る道のりは大変。そのぶん、自然の力を存分に感じることができる、本芸術祭のクライマックスのひとつだろう。

井倉洞
アンリ・サラ(左) 後ろの橋を渡って鍾乳洞の内部へ向かう

ここで作品を発表するのはアンリ・サラ。作品は音と光で構成された体験型ツアーだ。まず鑑賞者は数名の隊列を組み、1・3・5といった奇数番目の人が音響装置とライトを備えたリュックを背負う。この背負った装置同士やライトの光が反応し合い音が発生する仕組みだ。ヘルメットも被り準備万端! 非日常感で早くもワクワク。

ここから約1時間ほどかけて鍾乳洞のなかを歩いていくのだが、安全に気を配りながら進むため、写真を撮るのもなかなか難しい。まさに全身で周囲の環境と渡り合いながら、太古と現代をつなぐ異世界へと誘われるアート体験。ひと巡りして再び外の世界を見たときは、山々の美しさや陽の光に安堵し、「生還した」という達成感でいっぱいになった。 (参加する際は公式サイトから予約方法や注意事項をチェックしてほしい)

アンリ・サラの作品を体験しながら巡っている井倉洞の中
井倉洞の札は、毎度ちょっと気になる内容で面白い
アンリ・サラの展示
外に出ると、日が暮れ始めていた

なお、本芸術祭にはほかにも様々な作品があり、2日間にわたって駆け足で各地を巡ったプレスツアーでも回りきれないほど。これから足を運ばれる方は、アートに加えこの地域の魅力を楽しめるよう、余裕を持ったスケジュールを組めたらベストだろう。公式ツアーやレンタカーなどを活用しながら、ぜひ自分だけの旅を楽しんでほしい。

福島夏子(編集部)

福島夏子(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集長。『ROCKIN'ON JAPAN』や『美術手帖』編集部を経て、2021年10月より「Tokyo Art Beat」編集部で勤務。2024年5月より現職。