公開日:2024年7月5日

おいしいサウジアラビアごはん。お米料理にラクダのミルク、寛容さの象徴としてのコーヒー

TABのスタッフが時々更新する日記。今回は編集部・福島によるサウジアラビア・ジッダ取材で食べたおいしいものについて

サウジアラビアの都市ジッダに行ってきました

6月頭、「チームラボボーダレス ジッダ」を取材しに、サウジアラビアの第二の都市、ジッダ(ジェッダ)に行ってきました。

ジッダは紅海に面した港町で、イスラム最大の聖地であるメッカ、メディナへの玄関口として、昔から多くの巡礼者を迎え入れてきた都市。だからこそ首都リヤドに比べてよりコスモポリタンでリベラルな性格を持つ都市だと本で読みました。

サウジアラビアの観光ビザが解禁されたのが2019年。おそらくこれまでサウジに行った経験のある人もそれほど多くないでしょうから、短い滞在時間ではありますが、私の体験談をお伝えしたいと思います。美術や歴史関連のスポットをまとめた記事も書きたいですが、今回はひとまず食について。

とにかく米がうまい

エティハド航空の機内食

まずエティハド空港の機内食が、いままで食べた機内食でいちばんおいしかった!メインの米とチキン、ピンク色のフムス、普段残しがちなデザートまで全部おいしくて完食。エティハドはお隣アラブ首長国連邦の国営航空会社ですが、早くも出張中の食事に期待が高まります。

そして、そんな予感は的中しました。

サウジアラビアの伝統料理カブサをはじめ、サウジや中東料理ではお米を使った料理が一般的。これがとにかくめちゃくちゃおいしい。

細長いバスマティ米が、スパイスやお肉の出汁と一緒に炊き込まれたピラフのような感じで、それがたっぷり盛られた上にお肉やトマトなどの野菜が乗っかって出てくる。スパイスが効いているといっても辛かったり癖が強いわけではなく、素材の旨味を引き出す優しい味わい。いい香りが立ち込め、旨みが口いっぱいに広がり、気づけばお茶碗2〜3膳分ほど平気で食べてしまいます。

上はホテルの近所の繁盛店でテイクアウトしたごはん。米の上にケバブ、トマト、玉ねぎ、さらにフライドポテトとパンもどっさり乗っていて元気いっぱい。あと茶色い麺?もお米に混じっていて炭水化物のお祭りです。

ジッダの物価は全体的に東京よりちょっと高いかな…?という感じでしたが、このケバブが乗ったごはんのプレートやチキンの丸焼き、サラダ、パン、コーラで日本円にして2500円ほど。4〜5人で食べられそうな量だったので、地元の人向けのお店はリーズナブルなのかもしれません。

続いて、こちらはレストランで食べた料理。

結構激しく叩いていた

銀色のお鍋をテーブルに持ってきたお店の人が、トントントントンと勢いよく叩くと、

じゃじゃーん!

マクルーバ

お米でできたケーキのような料理、マクルーバが中から出てきました。これはテンションあがります。マクルーバはアラビア語で「ひっくり返す」という意味だそう。上に乗ったナスが香ばしくトロトロでいい風味。3色のお米もうまい。

お米料理で有名なレストラン

マクルーバは、パレスチナや周辺地域の伝統的な料理だと以前に知り、食べてみたいなと思っていました。ジッタのお米料理で有名なレストランにあったので、今回食べることができました。

(ガザからジッダまでは1200kmほど。東京〜鹿児島くらいの近さです。本稿では書ききれませんが、このことはサウジ行きが決まってから何度も考えました)

フムスやムタッバルなどもおいしい。デリに並んで色とりどり、全部食べたかった

中東地域の伝統を受け継ぐ飲み物

国土の大部分が砂漠のサウジアラビア。その伝統料理には、古代の隊商や砂漠での遊牧生活様式が反映されているといいます。バスマティ米やスパイスは、歴史的に東方からキャラバンで運びこまれたもの。

カラックという中東のチャイをキャメルミルクで作ったもの。ミルクの風味は牛乳よりあっさりめ。乗り継ぎしたアブダビ空港のキャメルミルクカフェにて。ほかにもチョコレートやイチゴフレーバーのキャメルミルクなどもあった

中東ならではといえば、ラクダのミルク(キャメルミルク)を今回初めて飲みました。砂漠の遊牧民ベドウィンの人々が何世紀にもわたり飲んできたもので、最近ではその栄養価の高さ、脂肪分の低さなどからも注目されているとか。

ちなみに私はチャイが好きなのですが、カラックは中東地域とインドとの長きにわたる貿易と文化的関係の遺産と言えるもの。スパイスたっぷりでたいへんおいしいです。

ジッダ歴史地区の紅茶屋にて。これは牛乳で作ったカラック
カラフルなポットなどインテリアもかわいい

フルーツも美味。とくにスイカは広く生産されています。街歩きはフレッシュジュース片手に気分を上げたいところ。

ジッダ歴史地区のジューススタンドで買ったスイカジュース
映えてます(当社比)

そして何より、サウジアラビアの文化に深く根付いた飲み物といえばコーヒー(カフワ)です。古くより客人をもてなすために振る舞われており、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、オマーン、カタールからの共同申請によって、このコーヒーによるもてなしの文化は2015年に「アラビアコーヒー、寛容さの象徴」としてユネスコの無形文化遺産に登録されています。

実際に、ホテルのフロントや朝食をとるレストランの入口、チームラボボーダレス ジッダの報道内覧会、イスラム文化に関するミュージアムの入口など、人々を出迎える様々な場所にアラビアコーヒーとデーツが一緒に置いてありました。

ミュージアムの入口で「ご自由にどうぞ」と置いてあったコーヒーとデーツ

コーヒーといっても、日本で飲み慣れたコーヒーとは味も見た目も違います。初めて口に含んだときは恥ずかしながらコーヒーだと気づきませんでした。どちらかというと生姜湯を思い出すような黄金色と風味。アラビアコーヒーは、カルダモンやサフランなどを加えてコーヒー豆を煮出し濾さずに提供され、伝統的にはもてなしを受けるゲストは、フィンジャーンと呼ばれる小さなカップで飲みます。

私はこれまでこうしたサウジアラビアのコーヒー文化についてよく知らなかったのですが、世界で生産されるコーヒー豆の大半がアラビカ種であり、またコーヒーの語源はアラビア語ののカフワであるとする説が有力だそう。イスラムではお酒が禁じられているため、なおのことコーヒーはおもてなしに欠かせないのです。

またこうした伝統的なコーヒーだけでなく、街には欧米型のカフェもあり、様々なかたちでコーヒーが日常に根付いています。

歴史地区を炎天下のなか歩いていたら、優しいおじさんが水とアイスをくれました。サウジアラビアのおもてなし精神を感じた瞬間です
名産品のデーツも様々な種類がある
ジッダ歴史地区

総括すると、わずかな滞在ではありましたが、とにかくおいしかったサウジアラビアでのごはん。私はエスニック料理も好きですが、インド料理やタイ料理に比べても、中東のお米料理は日本での食事に馴染んだお年寄りや子供にも親しみやすく食べやすい味だと思いました。もっと日本で流行っておかしくない、いや流行っているけど私が知らなかっただけなのか。中東料理にこれまであまり馴染みがなかったのは、私のこの地域への様々な面における距離感や不勉強が関係しているでしょうし、改めて無知さを恥じました。

中東料理のおいしいお店をご存知の方、ぜひ教えてください。

マクルーバを作れるかしらと調べていたらカルディに”素(もと)”があることが判明。なんでもあるな、カルディ

最後に、私が訪問したすぐ2週間後から大巡礼「ハッジ」が始まり、多くの方がメッカを訪れましたが、気温が50度を超える猛暑の影響で熱中症などにより1300人以上が亡くなりました。心よりお悔やみ申し上げます。

福島夏子(編集部)

福島夏子(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集長。『ROCKIN'ON JAPAN』や『美術手帖』編集部を経て、2021年10月より「Tokyo Art Beat」編集部で勤務。2024年5月より現職。