中国・南京の中心に位置するショッピングモール、德基廣場(デジプラザ)。その最上階にあるDeji Art Museum https://www.instagram.com/dejiartmuseum_official/?hl=en で、11月15日からデジタルアーティスト Beeple(ビープル)の大規模個展が始まっている。
Beepleと聞いて、アートに造詣のある人なら思い起こすのが2021年のクリスティーズオークションだ。当時存命のアーティストで世界3位の高額で落札された作品として「デジタルアート」としてのみならず、アートの歴史に残る世界的なニュースとなった。
同時にそのニュースを見聞きして「この程度の画像の組み合わせでそんな高額に?」となった人も少なくないだろう。5000 daysという、およそ13年間、5000日におよぶ日々のドローイングを組み合わせた画像が「唯一性」を担保されたNFTとして評価されたというものだ。5000枚もの絵自体のボリュームはあるが、たしかに「アート」として1枚1枚がよい絵かどうかは、議論の余地があるかもしれない。日々のドローイングや連作を数年にわたって展開した作品は美術史上、さして珍しくはない。5000日間続けて描く、しかもデジタルにおいてという点で、日々フォーマットやOSも一定にさせづらいなかで継続していく難易度が、オークション落札金額を跳ね上げた理由のひとつにはなる。しかし成果物が「絵画」として評価の高いものになるかというと、必ずしもそうとは限らない。
2024年11月14日、南京のDeji Art Museumで、デジタルアーティスト Beeple(本名Mike Winkelmann)の記念碑的な個展「Tales from a Synthetic Future」が開幕した。本展覧会は、現代デジタルアートの最前線を代表するアーティストの軌跡を辿り、テクノロジーと芸術の境界を根本的に再定義する野心的なプロジェクトとして注目を集めている。
展示の中心となる4つの主要作品は、Beepleの芸術的進化と哲学的洞察を雄弁に物語っている。
「S.2122」は、2122年の人類の未来を描いた2メートル超の回転彫刻。この革新的な作品は、5日ごとに更新されるダイナミックな性質を持ち、気候変動という喫緊の地球規模の課題に対する人類の適応力を象徴的に表現している。海面上昇と人間の生存戦略を視覚化することで、テクノロジーと環境の複雑な相互作用を探求する。
2007年から継続中の「Everydays」プロジェクトは、Beepleの芸術的修行の記録であり、創造性の驚くべき証明でもある。毎日1点の作品を制作し続けるこの挑戦的な取り組みは、現在6,000点以上の作品を生み出している。各作品は、デジタル時代の瞬間を切り取り、現代社会の複雑さ、混沌、そして時にはディストピア的な側面を鋭く観察している。シュールでハイパーリアルな世界観は、政治、ポップカルチャー、SF的想像力が融合した独自の美学を形成している。
「Human One」は、デジタルアートの可能性を根本的に再定義する画期的な作品。動的に進化する最初のキネティック彫刻として、リアルタイムで変化する映像は、従来の静的なアート概念に挑戦する。まるで生物が成長するかのように、作品自体が進化し、意味を更新し続ける。アーティストと作品、そして観客との間の対話的な関係性を再構築する試みとして高く評価されている。
2024年の新作「Exponential Growth」は、自然とテクノロジーの複雑な関係性を探求する野心的な作品。20億通りの植物景観を生成可能なこの作品は、人間の創造性を自然の延長線上に位置づけ、技術による自然の再解釈を試みる。成長、開花、衰退の循環を通じて、現代生活の急速な革新と複雑性を象徴的に表現している。
展覧会の革新的な側面として、「Digiverse」プロジェクトが注目される。新世代のデジタルアーティストを公募し、デジタルアートの可能性を拡大する野心的な試みだ。これは単なる公募プロジェクトを超え、デジタルアートのエコシステム全体を活性化させる戦略的な取り組みとして評価されている。
芸術顧問のHans Ulrich Obristは、この展覧会を「過去・現在・未来の境界線を超えた」体験と評価。Ai Lin館長も、「人間、テクノロジー、自然、宇宙の動的な関係を探求する」展覧会の意義を強調している。
Beeple自身は、「南京での初の個展は、過去と未来をつなぐ重要な瞬間」と語り、デジタルアートの可能性への熱い思いを示した。彼の言葉は、単なる技術的な革新を超えた、より深い文化的対話への意志を象徴している。
本展覧会は、単なる作品展示を超越し、テクノロジーと芸術の融合、未来への洞察、人間性の探求を包括的に提示する。デジタルアートの可能性を拡張し、現代アートの新たな地平を切り開く、21世紀を代表する重要な文化的イベントとして、国際的な注目を集めている。