台湾最大のアートフェア「ART TAIPEI」。30年の歴史を持つフェアが今年も10月19日から10月23日の期間開催する(19日はVIPのみ入場可能)。Tokyo Art Beatは台湾の5つのギャラリー(YIRI ARTS、Double Square Gallery、Mind Set Art Center、Project Fulfill Art Space、InArt Space)に以下の質問をメールで投げかけ回答を得た。
1. 2023年の「ART TAIPEI」の出展作家とセールスポイントを教えてください。
2. 世界の美術市場において、どの国・地域に期待しますか? あるいは、アジアのアートマーケット(日本も含む)に対して、ギャラリーとしてどのような期待をお持ちですか?
YIRI ARTSは台北市をベースとする、台湾のコンテンポラリーアートにフォーカスしたギャラリー。蓮輪友子、平子雄一など一部日本人アーティストも取り扱う。
1. 今年のART TAIPEIでは、レイチェル・カーソンの『沈黙の春』をテーマにした特別企画を開催します。カーソンの衝撃的な本著は、人類が自然をコントロールし、経済活動を行う方法を変えただけでなく、アースデイを創設するきっかけとなり、アートの世界における自然に対する見方を変えました。出展アーティストは、ドイツ、イギリス、スペイン、オーストラリア、日本、シンガポール、ベルギー、インドネシア、中国からなる20人の国際的アーティストを集結させます。
注目すべきは、パブリックアートのセクションで、日本人アーティスト・平子雄一による過去最大規模のインスタレーションが展示されることです。世界を精霊が宿るものとしてとらえ、絵画やインスタレーションを通して都市と自然の共生を深く探求しています。
この展覧会でYIRI ARTSはアートと自然の共鳴をとらえ、それぞれの作品が魂のこもった種として機能します。いつ蒔かれた種であろうと、未知の心に花を咲かせる可能性を秘めています。私たちは、アートマーケットのプロモーションを通じて、観客に環境の持続可能性など地球規模の問題について考えていただくことを促します。YIRI ARTSは、アートが社会と世界を変えるポジティブな力を持っていると信じています。
2. 近年、大きな注目を集めている東南アジアのアートマーケット。今年11月に開催されるArt Jakartaに2度目の出展を予定しています。さらに、今年のArt Taipeiでは、M. Irfanとアレクサンダー・セバスティアヌス(Alexander Sebastianus)という2人の優れたインドネシア人アーティストを紹介します。このことは、東南アジア全域のコレクター、美術機関、アーティストと強いつながりを築く上で、私たちに多大な刺激をくれます。
もう一つ、フリーズのソウル進出は、韓国のコレクターやギャラリーに大きな影響を与え、世界のアートステージで脚光を浴びることとなりました。3月のアートバーゼル香港では、韓国のコレクターの熱意とエネルギーが私たちのブースに反映されているのを感じました。
パンデミックが和らいで2年目のART TAIPEIには、日本の著名なギャラリーが多数出展します。台湾のアートシーンが完全に回復しただけでなく、より冒険的で、驚くほど多様化していることがわかります。これは、今年のテーマである「沈黙の春」と共鳴するものです。私たちは、より多様で持続可能なアジアのアートマーケットが、活気に満ちたダイナミックなアジアのアートシーンを形成していく予感に胸を躍らせています。
Double Square Galleryは2015年台北市で設立されたギャラリー兼アートスペース。キュレーションの実践、出版、リサーチなど幅広く活動。
1. 今年の展示ではシンシア・サー、ホイ=ユー・スー、チン・ヤオ・チェン、イェン・フー・クオ、ハイ・シン・ファン、ジョー・メイ・リーの6人のアーティストが、平面絵画、彫刻、映像、インスタレーションなど、さまざまなメディアを駆使した作品を披露します。
「ポリフォニック・ナラティブ」をテーマとするこの展覧会は、ポリフォニックな音楽の概念を視覚的な言語へと変容させます。「ポリフォニー」とは、音楽理論から借用した用語で、同時に演奏される2つ以上の音色や旋律線の組み合わせを指します。同様に、この展覧会は、多様な形態、メディア、アイディア、視点を融合させ、個々の作品の完璧なハーモニーを構成することで、芳醇で躍動感あふれる視覚的な音楽を創り上げます。
2. 本フェアでの交流を通じて、アジア各地域の国を超えての連携を促進し、アジアのコレクターに現地のアーティストを推薦し、アジア全体の芸術文化の多様性を創造していくことを期待しています。また、民間だけでなく、公的機関や関係美術団体を通じた交流をさらに促進し、学術、制度、教育、市場などの観点から、アジア全体の美術環境の発展を高めることが必要だと思います。
Mind Set Art Centerは2010年設立の台湾、アジアほか国際的なアーティストの作品を展示するギャラリー兼アートプラットフォーム。出版にも力を入れ、展覧会カタログやアーティストアルバムなども作成。
1. ブースの見所は、Mind Set Art Centerとゆかりのある以下の18人のアーティストの作品です。以下の通りです: 周楷倫(チョウ・カイルン)、マリーナ・クルーズ、ルイ・ミゲル・レイト・フェレイラ、傅饒(ラオ・フー)、李明則(リ・ミンチェ)、林煒翔(リン・ウェイシン)、劉致宏(リュウ・ジーホン)、羅懿君(イ・チュンロ)、アナ・マリア・ミク、ヨアン・デ・モイーズ、大巻伸嗣、石晉華(シン・ジンファ)、謝鴻均(シェ・ジュイン)、黨若洪(タン・ジョフン) 、曾雍甯(ツェン・ヨンニン)、吳增榮(ウー・ツェンジョン)、楊立(ヤン・リー)、楊寓寧(ヤン・ユーニン) 。 展示では、絵画や彫刻を通して人間の在り方や自然の美しさを探求します。
2. 近年、中国やアジアのコンテンポラリーアート市場が冷え込むなか、欧米のコンテンポラリーアートのプライマリー・マーケットやセカンダリー・マーケットにアジア資本が急速に流入しています。
いっぽう、これまで注目されていた多くの西洋アーティストの売り切れが続出し、推定価格を大きく下回るなどパフォーマンスが低迷していることから、アジアのコレクターや資本は西洋美術を全面的に受け入れる考えを見直したとみられます。これは、アジアのアーティストと市場の再構築の鍵だと思います。
現代アートとその市場において、実は地域を分ける必要はありません。洋の東西を問わず、優れた芸術家は奨励され、収集される価値があります。しかし近年、アート市場では、迷信的で短期的な利益を追求するやり方で、欧米のブランドを追い求める資本や発言力が強すぎます。このような市場の考え方は実に愚かだと思います。私は、この経験が再びアジアのアート市場がより成熟したステージに向かう出発点になると信じています。芸術的創造であれ、アート・コレクションであれ、市場であれ、より長い時間軸でその価値と信頼性を理解し、証明する必要があります。
Project Fulfill Art Spaceは現代アートの交流の場として2008年に設立されたアートスペース。1の質問のみ答えた。
1. Project Fulfill Art Spaceは、「Art Taipei 2023」の参加アーティストとして、「Power House」と「New Contemporary」から計7組のアーティスト(チウ・チャオツァイ、シエ・ムーチー、金氏徹平、毛利悠子、森千裕、オウ・ジンユン、ワン・ショーン)を招聘します。
「Power House」は、シエ・ムーチー、ワン・ショーン、オウ・ジンユンの3名のアーティストが、それぞれが異なる視点から独自の視点を明らかにします。シエン・ムーチーは自身の絵画を地域環境や文化の発展とのつながりとしてとらえ、ワン・ショーンは哲学的な側面から絵画と媒体の特性について考察し、オウ・ジンユンは華麗なイメージで空間を探求します。
いっぽう、「New Contemporary」は、Project Fulfill Art Spaceが注目してきた「多様性」を表現します。現在同ギャラリーで個展を開催中の時計仕掛けのインスタレーション・アーティスト、チウ・チャオツァイ。第60回ヴェネチア・ビエンナーレに日本代表として参加する毛利悠子。コラージュ、インスタレーション、映像など、さまざまなメディアで作品を発表する金氏徹平、森千裕。
InArt Space は台南市ベースのギャラリー。2007年の設立以来、コンテンポラリー・アートとモダン・アートを紹介している。InArt Spaceも1の質問のみ答えた。
1. 今年のArt Taipeiでは、6名の優れたアーティストを招き、作品を展示する機会に恵まれました。これらのアーティストは世界各地から集まっています。そのうちの4人は台湾からの才能あるアーティストで、イン・シェン・クオ、ツーチ・イエ、チエンホア・ホアン、そしてアギ・チェンです。さらに、イタリアからはサビーナ・フェローチを紹介します。
台湾写真界の重鎮であるイン・シェン・クオは、「エモーショナル・フォトグラフィー」という独自のスタイルを確立しています。クオの作品は、アーティストの内なる感情を雄弁に物語り、作品は自己治癒の手段としてだけでなく、小宇宙的な自然風景と感情のシームレスな融合としても機能しています。彼のレンズがとらえたスナップショットを通して、鑑賞者は思考と感情の無限領域を体験することができます。クオの写真は、感情的な内面世界の深みへの入り口として機能しています。
チエンホア・ホアンは、長年にわたり「デジタル操作によるイメージ」の理論の探求に専念し、動物、人間、社会的関係に対する観察を作品に注ぎ込んできました。モンタージュによって構築された作品は、バーチャルとリアルを織り交ぜ、ファンタジーとイマジネーションに満ちたシーンを作り上げています。チエンホアの作品は思考実験にも似ており、観る者をダイナミックなデジタル領域へと導き、人間と自然の微妙な関係を探求します。
多様な台湾のアーティストの作品とギャラリーの意気込みを実際目で見て確かめたい。