東南アジアの現代アートにフォーカスするアートフェア、アート・ジャカルタ(Art Jakarta)。2023年は11月17日から19日の間、ジャカルタのケマヨランにあるJIEXPOで開かれた。インドネシア、台湾、韓国、マレーシア、シンガポールなど東南アジアを中心とした68のギャラリーが出展し、3万5578人の来場者がフェアを訪れた。
セールスの結果は2023年11月27日時点でまだ出ていないが、筆者が実際に足を運んで会場を見て回って感じた印象では、インドネシアはもちろん、とくに台湾、シンガポール、韓国などからコレクターやアート関係者が集い賑わいを見せていた。
日本でインドネシアのアーティストやギャラリーの展示を見る機会は少ない。実際にフェアを訪れてみて、インドネシアのギャラリーとアーティストの作品をまとまった量見てみると、プレゼンテーションのクオリティの高さとアーティスト層の厚みを感じた。その中で特に記したいギャラリーブースとプロジェクトを紹介する。
若干34歳のギャラリスト、ラクサマナ・ジュニア・ティルタジ(Laksamana “Junior” Tirtadji)が運営するインドネシアのギャラリーROHは、インドネシアで今一番勢いがある若手のギャラリーだ。フェアのブースとは思えないひとつの展覧会のようなクオリティが高いプレゼンテーションだった。メディアも多様で、ペインティング、陶芸、映像、インスタレーションをバランスよく見せる内容だった。
物と鑑賞者の既成の関係に揺さぶりをかける、インドネシア人アーティストのバグース・パンデガ(Bagus Pandega)は電子基盤、植物、電球などで構成された立体作品を展示。
同じくインドネシアのアートを紹介しているギャラリー、カンズ・ギャラリー(CAN'S GALLERY)には、2013年にヴェネツィア・ビエンナーレのインドネシア代表も務めたエンタン・ウィハルソ(Entang Wiharso)の比較的大きなペインティングがあった。
ウィハルソの作品表面は青くキラキラと輝き、石や人間の顔、妖怪のような想像上の生物をモチーフに、孤独、愛、狂気、憎しみなどが複雑に描かれている。
シドニー、メルボルン、シンガポールをベースとするギャラリー、シルヴァン・ストランプ(Sullivan+Strumpf)では、インドネシアのバンドゥンを拠点とするイルファン・ヘンドリアン(Irfan Hendrian)の作品を数点展示していた。
ヘンドリアンの作品はトタンのような質感の部分も含めすべて紙でできており、自身の家族の物語を抽象化し、平面表現にとどまらない彫刻的なアプローチで制作されている。
ギャラリーブース以外にもフェア会場に巨大なプロジェクトがいくつか展開されていた。
デジタル投資プラットフォームBibitが協力し、フェア会場に特別なプレゼンテーションも展開された。2019年のヴェネチア・ビエンナーレインドネシア館の出展作家として選定されたシャギニ・ラトナ・ウラン(Syagini Ratna Wulan)は、《Memory Mirror Palace》と題した大規模インスタレーションを展示。
インドネシア人アーティストのシャイフル・ガリバルディ(Syaiful Garibaldi)は、BMW社の車種「MINI」を植物のチランジア・ウスネオイデスで覆い、自然と日常生活の関係を探究するコラボレーション作品を制作した。
会場全体で点在していた作品のなかでも筆者が特に惹かれたのは、インドネシアの手工芸、伝統文化を取り入れたアート作品だ。
カナダ・モントリオールとバリ島を拠点とするインドネシアのアーティスト、アリ・バユアジ(Ari Bayuaji)はインドネシア・バリの伝統的な織物に、天然石や海洋漂流物を縫い付け、芸術の価値を揺さぶり、織りに従事する女性の地位についての考察を促している。
ジャカルタとクアラルンプール育ちのサリタ・イブノー(Sarita Ibnoe)も「織り」を彼女の作品に取り入れている。人生の瞬間瞬間の思い出を、織物、ドローイングとペインティングを一つの作品のなかに紡ぎ組み合わせている。
インドネシアの東ジャワ生まれのジュマアディ(Jumaadi)は、インドネシアの伝統的な影絵芝居ワヤン・クリから影響を受けて、愛、対立、帰属といった普遍的なテーマをもとにインドネシアの歴史、アーティスト個人の経験を豚の皮に彫った。
2024年は10月4日から6日に開催予定。東京からジャカルタまで直行便の飛行機で7時間半ほど。東南アジアの現代アートに興味がある方は次回訪れてみてはいかがだろうか。