今年20周年を迎えるアートメディアTokyo Art Beat。アーティストやキュレーターに深く切り込んでいく取材記事やインタビューから、人気の展覧会のまとめまで、幅広く網羅するアート専門媒体ですが、編集部はプライベートをどう過ごしているのか? アートはもちろん、それ以外の趣味や、一緒に生活する動物なども少しずつお披露目していこうということで、新たに編集部日記を始めます。
トップバッターを務めます田原です。株式会社アートビートの取締役として、TABでは経営に携わっていて、時々写真を撮ったり、たまに記事も執筆しています。
ここ十数年、趣味で「珍奇植物」、「ビザールプランツ」とも呼ばれる中南米やアフリカ原産の植物を育てています。日本国内で蒐集する以外にもアメリカやタイ、台湾などから輸入したりしています。「自然」の造形の美しさと、園芸として「人の手」が加わったところが魅力です。
温室までは持ち合わせてはいないですが、自宅のベランダがどうなっているかというと……『風の谷のナウシカ』の秘密の小部屋を想像していただければ、わかりやすいかもしれません。
増えすぎて仕方がなかったこともあり、先日ヒカリエで開催されたアートのバザールで、初めて人前で販売してみました。アートのバザールではあるのですが、アーティスト、コレクター、ギャラリースタッフも同じ系統の植物を育てている方が多く、大反響でした。
さらに植物を育てるのは苦手なんだけど、といいながらも手に取ってくれる方々もいらっしゃったし、日本も世界的にもコレクターの大半が男性で占められているマーケットですが、当日は女性にもたくさん関心を寄せていただき、その後も順調に育てているという声を聞けて嬉しい限りです。
近年の急激な人気もあり高騰しているアガベやパキポディウムなど、珍しさや流行り廃りの激しさはアート作品のマーケット状況や、アートのコレクションとも近いところもありそうです。一部は高額で取り引きされるため本物か偽物か、などの話題も出ては消えてというのを繰り返しています。アートとの決定的な違いとしては、植物の個体としての寿命はありつつも、実生などで同じ遺伝情報でクローンとして増やせ、さらには交配して新たな品種を作出できるところでしょうか。
いっぽうで、例えば近年美術館・博物館所蔵の文化財や美術品の返還がもと作られた国から要求されるように、「現地球」としてやり取りされる原産地で育った株をほかの地域に転売するのは倫理的にどうなのかという議論も噴出していて、現に盗掘・密輸も大きな問題になっています。
ブラジルの山岳地帯やマダガスカルの荒野で長い年月をかけて生まれた株がフロリダやタイを経由して、東京の狭いベランダで愛でられている……というのはロマンもありつつ、世界経済の不均衡さまでも想起させられます。
そんな社会的なトピックにもつながる植物ですが、そもそもの魅力に立ち返ると、以前ギャラリストの小山登美夫さんがTABのYouTubeでのインタビューで語ってくださった「人間と自然」のテーゼにも関わってくるなとも思います。なぜ植物に惹かれるのか? という問いは、暖かく花芽が伸びていくこの季節にちょうどよい問いかけかもしれません。
長くなりそうなので、続きはまた次の機会に。今後も不定期に編集部日記を更新していくのでどうぞお楽しみに。