公開日:2024年9月30日

アートとAIの法律基礎知識。生成AIを使って作品制作をするとき、気をつけるべきポイントは? 弁護士・小松隼也が解説【特集:AI時代のアート】

生成AIを用いたアートやイラスト制作に関する疑問に弁護士がお答え! 著作権侵害のリスクをどう避けるのかなど、参考例を交えながら解説する

ゲルハルト・リヒターの絵画作品の画像をAIに学習させて生成した画像(作成:筆者)

生成AIを使った制作、法的に大丈夫?

生成AIがあっ!という間に身近なものとなり、生成AIを使用した作品も数多く見られるようになりました。画像や映像を生成したり、あらすじやストーリーを生成して作品の基礎としたり、生成AIに作品の一部を補正してもらったり、生成AIにキュレーションを行わせたり、と態様も様々です。

今後も生成AIを使用した新しい作品が続々と現れるでしょうが、生成AIを使用する際に、「これって法律上は大丈夫なんだっけ?」という疑問を持った方も少なからずいるように思います。現在普及している生成AIは、世界中に存在している画像やテキストなど、著作権で保護されたデータを含む大量のデータを収集・分析したうえで構築された学習モデルに指示を入力することで生成がなされています。したがって、第三者の権利の集積の上に成り立っているとも言えるので著作権の問題とはつねに隣り合わせです。

しかしながら、この記事を執筆している時点では、生成AIを使用した作品が著作権侵害になるか否かの明確な判断基準や参考となる裁判例は存在していません。そのような状況を受けて文化庁は、2024年3月15日に「AIと著作権に関する考え方について」という文書を参考のために公開しました。

もっとも、著作権侵害が成立する可能性があるからといって、作品を制作するにあたって生成AIの使用を過度に避ける必要はありません。以下に気をつけるべきポイントや具体的な参考例を紹介しますので、これらを念頭に入れながら、今後の制作活動の一助にしていただければと思います。

なお、後ほど詳しく述べたいと思いますが、まずは日本の法律を前提に生成AIに関する話を進めていきたいと思います。

1. 生成AIを使用して画像や映像を生成したけど、著作権侵害になるリスクを避けるにはどのようなことに気をつければいいの?

生成AIが生成する画像や映像が他人の著作権を侵害するかどうかは、①生成AIが構築される際に用いられた元データに著作権で保護されたコンテンツ(画像、映像、文章、音楽など)が無断で使用されているかどうか、②生成AIを使用して生成した生成物が、他人が著作権を有するコンテンツに類似しているかどうか、③生成AIを使用してコンテンツを生成する際のプロンプトとして入力した指示内容、の3点によって判断が分かれると考えられています。

したがって、他人が著作権を有するコンテンツを無断で元データとして学習して構築された生成AIのサービスを使用し、その結果、生成されたコンテンツが著作権で保護されている他人のコンテンツに似てしまった場合には、その際のプロンプトの指示内容によっては著作権侵害となるリスクがあります。

このようなリスクを避けるためには、①生成AIを構築している元データに、生成AIの元データとして使用されることをあらかじめ許諾したコンテンツや著作権の切れたコンテンツしか含んでいない生成AIのサービスを使用する(Adobe Firefly https://firefly.adobe.com/ など)、②生成したコンテンツが、他人が著作権を有するコンテンツに似ていないかどうかをGoogle画像検索などでチェックする、③生成の際のプロンプトの指示に、著作権で保護されているコンテンツを示唆する用語(キャラクター名や作家名など)を使用しない、著作権で保護された画像や映像などを直接入力しない、といった点に気をつけると良いと思います。

注意が必要なのは、②の他人のコンテンツに似ているかどうかの判断は、裁判所や専門の弁護士のあいだでも判断が分かれることが多いので、「これはあれに似ているな」と思ったらその生成物の使用を避けるか、専門の弁護士に相談することをおすすめします。

参考例
• 生成AIを構築する元データにゲルハルト・リヒターの《エマ(階段を降りる裸婦)》(1965)が学習されている場合に、生成AIの利用者が、プロンプトとして、「ゲルハルト・リヒター」と作家の名前を入力したり、「エマ(階段を降りる裸婦)」と作品名を入力したり、作品の画像をドラッグ&ドロップしたりして画像を生成した結果、リヒターの作品と類似した画像が生成された場合

→著作権侵害となる可能性がある。

• 生成AIを構築する元データにリヒターの作品が学習されていない場合で、生成AIの利用者が、プロンプトとして、作家の名前や作品名、画像などを入力していないにもかかわらず、リヒターの作品と類似した画像が生成された場合

→あくまで偶然の類似であり、著作権侵害とはならない(意図しない偶然の類似には著作権侵害が成立しないとされています)。

ゲルハルト・リヒターの絵画作品の画像をAIに学習させて生成した画像(作成:筆者)

2. 生成AIを使用して作品のコンセプトやアイデア、制作方法を考えた場合、著作権侵害となるリスクは?

じつは作品のコンセプトやアイデア、制作方法といった、この世に表現が実際に表れる前の段階の要素は、著作権では保護されません。これらの要素も著作権で保護されると誤解されていることが多いのですが、著作権で保護されるのは実際に表現として表れたもののみとされています。

ですので、コンセプトやアイデア、制作方法を生成AIを使用して考えたとしても、著作権侵害のリスクはないと言えそうです。もっとも、注意が必要なのは、生成AIに考えてもらったコンセプトやアイデア、制作方法を用いて、いざ具体的な作品を制作した際に、そこに表れた表現としての作品が他人の作品と似てしまった場合には、結果的にその段階で著作権侵害の問題が生じます。この点は分かりづらいので参考例を用いて考えてみましょう。

参考例
• 生成AIに作品のアイデアを生成してもらったところ、「精密に模写したモノクロ写真のイメージを微妙にぼかした作品」「風景写真やスナップ写真の上に油彩やエナメルでカラフルなブラッシュストロークを一部上塗りする作品」「特定のモチーフをキャンバスに描き、その上から何層も鮮烈な色を上塗りして、スキージ(板)をキャンバス上に滑らせていく手法で制作した抽象絵画」というアイデアや制作手法を生成してくれたので、そのような作品を制作した

→リヒターの代表的な「フォト・ペインティング」「オーバーペインテッド・フォト」「アブストラクト・ペインティング」のアイデアや制作手法であるが、これらは表現そのものではないので著作権では保護されず、そのような作品を制作したとしても作品のモチーフや構図、色彩といった表現が似ていない限りは著作権侵害とはなりません。ただし、炎上のリスクや作品としての価値はまた別の観点から問題になるので、あくまでここでは参考として。

もう一点、生成AIを使用して生成された画像がほかの作家の作品の作風と似てしまった場合には、著作権侵害のリスクはあるでしょうか? じつは作風も著作権では保護されないと考えられており、この点も誤解されていることが多いです。

したがって、リヒターの「フォト・ペインティング」や「オーバーペインテッド・フォト」「アブストラクト・ペインティング」風の画像が生成されたとしても、既存のリヒターの作品とモチーフや構図、色合いなどが似ていなければ著作権侵害とはなりません。ただし、作風を超えて、具体的な表現としての作品の構成要素が既存作品と似てしまっている場合には著作権侵害の可能性が生じますし、それらが似ているか似ていないかの判断は専門家でも難しいことが多いので注意が必要です。

ゲルハルト・リヒターの絵画作品の画像をAIに学習させて生成した画像(作成:筆者)

3. 生成AIを使用して作った作品は著作権で保護されるの?

じつは著作権法の規定からすると、生成AIが生成したコンテンツには著作権が生じないと考えられています。だからといって、生成AIを作品に使用したら、その作品には著作権がまったく発生しないかというと必ずしもそうではありません。

ある作品の制作において、その一部分に生成AIを使用した場合、その部分については著作権が認められないことになりますが、それ以外の部分を人間が制作していれば、人間が制作した部分については著作権が認められます。

もっとも、実際に作品を制作する際に、「ここからここは生成AIが制作して、ここからここは人間が制作した」と、きれいに切り分けられる場合は良いのですが、そうとも言えない作品もあり得るかと思います。たとえば、下絵に生成AIを使用したり、作品の背景の補正や線の補正、色味の補正など、従属的な部分の制作に生成AIを使用したりしていても、主要部分の描画を人間が行っていれば、生成AIはあくまで道具として用いられたに過ぎないと言うことができ、作品全体に著作権が認められることもあるように思います。

他方で、人間の関与が、生成AIのプロンプトにアイデアやコンセプトを入力しただけの場合には、生成された画像の主要な部分を人間が制作したとは言えないため、著作権は生じないと考えられています。なお、生成AIを用いた画像の生成という行為の主要な部分は、「プロンプトを入力すること」なので、主要な行為を人間が行っていると言えそうでもありますが、著作権との関係ではあくまで表現物である画像の創作的表現に関して、その主要な創作行為を人間が行ったかという観点で判断します。こちらも参考例を用いて考えてみましょう。

参考例
• 「特定のモチーフをキャンバスに描き、その上から何層も鮮烈な色を上塗りして、スキージ(板)をキャンバス上に滑らせていく手法で制作した抽象絵画」というプロンプトを生成AIに入力して生成された画像

→人間はプロンプトを入力したのみで、表現物である画像の創作的な制作には実質的に関与しておらず、機械の関与しか認められないので著作権は生じない。

• 人間が実際に特定のモチーフをキャンバスに描いたうえで、その上から何層も鮮烈な色を上塗りして、スキージ(板)をキャンバス上に滑らせていく手法で制作した抽象絵画の写真を画像データとしてPCに取り込み、その色味を生成AIを用いて補正したり、ブラッシュストロークの描画を生成AIを用いて調整したりした画像

→作品の表現の主要な部分を人間が実質的に制作しており、生成AIの関与は道具としての関与に過ぎないと考えられるので著作権は生じると考えられる。

ゲルハルト・リヒターの絵画作品の画像をAIに学習させて生成した画像(作成:筆者)

4. 日本で生成AIのサービスを使用して画像や映像を制作したが、海外の美術館やギャラリーで発表する場合はどこの国の法律が適用されるの? また、映像作品をグローバルベースのプラットフォームで公開する場合は?

海外で作品を発表する場合には、その国の著作権法が適用される可能性が高いと考えられます。したがって、アメリカではフェアユースによって著作権侵害の有無が判断されることになり、中国では、生成AIを使用して制作した作品に著作権を認める裁判があったので、現地の法律が適用され著作権が認められる可能性があります。

同じ作品であっても、その作品を日本で発表した場合には、日本の著作権法に基づき著作権侵害の判断がなされ、その作品に著作権が認められるかどうかも日本の著作権法に基づき判断されます。したがって、作品を制作した国や発表する国によって結論が異なることがあります。

また、映像作品などがグローバルプラットフォームで配信される場合には、配信された国ごとに著作権侵害を検討する必要が生じてきます。

各国ともに生成AIに関する法律は整備や改正がなされている段階にあり、今後の動向が注目されます。また、アメリカのように裁判例がリーディングケースとしてその後の判断基準に大きな影響を及ぼすことになる国においては、現在提起されている訴訟の結果が非常に重要となります。

したがって、生成AIを使用した作品を異なる国で発表する予定がある場合には、その国ごとに、著作権侵害の判断基準や著作権が認められるか否かを検討する必要が生じます。

なお、ビジネスにおいて生成AIを利用している場合、今後各国がどのように著作権侵害を判断するか明確な予想がつかないことも多々あり、著作権侵害が生じた場合のルールを契約に規定したり、いざという時の保険に加入したりすることなどでリスクヘッジをしているのが実情です。

5. 最後に

生成AIを使用する際の法律上のリスクを完全にクリアすることは現時点では難しいと言わざるを得ませんが、使用の際にちょっとした注意を払うことでリスクを軽減することは可能です。

著作権に関する問題を確実に避けたければ、生成AIの元データに許諾済みのコンテンツか著作権切れのコンテンツのみが使用された生成AIを使用すれば良いですし、そうでない場合には、プロンプトを入力する際に既存の作家名や作品画像を入力することを避ければ現時点では十分なリスクヘッジができると考えられます(実際に特定の作家名やコンテンツ名などをプロンプトとして入力することが制限されているサービスも散見されます)。

念のため、生成された画像や映像が既存の作品と類似していないかをチェックすればより安全なのですが、現時点で簡易的にチェックする方法としてはGoogle画像検索などで調べる程度の方法しかありません。この点に関しては、近い将来、著作権で保護された既存コンテンツとの類似点をチェックするためのサービスがまさにAIを用いて開発されると考えられています。

生成AIに関しては、今後も法律の規制の動向や裁判例の蓄積が期待されるところですが、それ以上のスピードでサービスの質は向上し、使用方法や用途も様々なものが日々あらわれるでしょう。法律面からは慎重な取り扱いが求められますが、その時点その時点で、適切な対策を講じつつ、創造的な活動の一助として利用されるのが良いのではないかと考えます。生成AIが日常の一部となった現代においては、コンテンポラリーなメディウムのひとつであることに間違いはないでしょうから、その使用に意義を見出したのであれば、法的リスクはヘッジしつつ、前向きに使用していくのが良いと思います。


*特集「AI時代のアート」のページはこちら

小松隼也

小松隼也

弁護士。1986年長野県生まれ。同志社大学法学部卒業。2009年に弁護士登録後、11年に東京写真学園プロカメラマンコースを卒業。15年、ニューヨークのフォーダム大学ロースクール卒業。2019年三村小松法律事務所として独立。ブランドの立ち上げや知財戦略、海外との契約交渉など中心に、ビジネスをサポートするリーガルディレクターとしての活動も行う。アートやファッションの知財の相談窓口やアドバイザーなども務める。