フリーズ・ソウル、キアフ・ソウルという2大アートフェアの開催に合わせて、9月上旬のソウルでは様々な美術館やギャラリーが世界から集まる観客に向けて充実した展覧会をオープンさせる。
そのなかのひとつ、韓国の化粧品メーカー「アモーレパシフィック」が運営するアモーレパシフィック美術館では、9月3日から2025年2月23日までエルムグリーン&ドラッグセット(Elmgreen & Dragset)の大規模な個展「エルムグリーン&ドラッグセット:Spaces」が開催中だ。国際的に評価の高いアーティスト・デュオの空間的な作品を紹介する、アジアで最大規模の展覧会となる。
アモーレパシフィック美術館は、ソウル駅から2駅隣りの龍山駅の駅前にある。アモーレパシフィックが2018年に新本社を作り、その地下に設置された新しい空間だ。前身として1979年に太平洋博物館として始まり、2009年にアモーレパシフィック美術館に名前を変更、古美術と現代美術を網羅した展示、研究、出版活動を行ってきた。
エルムグリーン&ドラッグセットはマイケル・エルムグリーン(1961 年デンマーク、コペンハーゲン生まれ)とインガー・ドラッグセット(1969年、ノルウェー、トロンハイム生まれ)によるデュオで、インスタレーション、パフォーマンス、映像作品など様々なメディアを用いて作品を制作。今回の展示でも見られるような精巧な人形を設置する大掛かりな作品を「横浜トリエンナーレ2008」でも発表したほか、大地の芸術祭にも参加経験がある。
本展はそのスケール感において特筆すべきものがある。住宅や公共プール、レストラン、キッチン、スタジオといった5つの没入型インスタレーションで構成され、ふたりの30年に及ぶ共同作業の集大成となっている。
たとえば《Shadow House》は、作家がデザインした一戸建て住宅でリビングルーム、キッチン、ベッドルーム、オフィス、バスルームなどを備えている。鑑賞者はまずその屋外から、リビングルームの窓に自分の息で「I」の文字を描く少年と出会う。
洗練されたインテリアを備えた住宅は非常にリアルだが、天地がひっくり返ったベッドや異常な水道など、所々に違和感やSF・ホラー的虚構が仕込まれている。鑑賞者は豪奢な舞台セットのようなインスタレーションのなかを歩き回りながら、登場人物たちの物語や作家が提示するイメージの深奥を想像することになる。
さらに未来的なビジョンを見せるのは、いかにも典型的な美人が気だるげにオンライン通話しながら佇むレストランと、その奥にあるキッチンだ。工業的な様子のキッチンでは防護服のようなユニフォームを着たふたりのシェフがステンレス製のテーブルに座り顕微鏡を覗き込んでいる。この姿はキッチンと科学研究所の類似性を浮き彫りにし、進化し続ける現代〜近未来の食習慣について鑑賞者の考えを誘う。
大企業の本社の地下に、超現実的な空間が広がる本展。韓国のアートシーンの力と、社会的における現代アートへの期待の高さを改めて感じた。
「エルムグリーン&ドラッグセット:Spaces」
会場:アモーレパシフィック美術館(04386 ソウル市ハンガン[龍山]区ハンガンデロ100 [漢江路2街])
会期:9月3日~2025年2月23日
開場時間:10:00~18:00(APMAは月曜日、1月1日、旧正月、秋夕(チュソク)の連休は休館)
問合せ:アモーレパシフィック美術館 +82 2-6040-2345、museum@amorepacific.com
公式サイト:http://apma.amorepacific.com
福島夏子(編集部)
福島夏子(編集部)