公開日:2024年7月7日

卯城竜太さんが選ぶ極私的「20年間のベスト展覧会」。2004〜24年のなかで記憶に残る展覧会は?【Tokyo Art Beat 20周年特集】

Tokyo Art Beat設立20周年を記念する特集シリーズ。卯城竜太(Chim↑Pom from Smappa!Group)が選ぶ3展は?

卯城竜太 撮影: みなみあさみ

2024年、Tokyo Art Beatは設立20周年を迎えます。この記念すべき年と、これまで/これからのアートシーンを祝福すべく、ユーザーの皆さんから「ベスト展覧会」を募るアワード企画とオンラインイベント、そして特集記事が進行中。

シリーズ「20年間のベスト展覧会」では、アートやカルチャーシーンで活躍する方々にTABがスタートした2004年から24年6月までに開幕した展覧会のなかで、記憶に残るものを1〜3点教えてもらいます。極私的な思い出から、現在の仕事につながる経験まで……展覧会にまつわるエピソードとともにお届けします。【Tokyo Art Beat】

*特集「TABの20年、アートシーンの20年」ほかの記事はこちらから

「西荻ビエンナーレ」(会田家、2005)

20年間という時間は、今年19年目を迎えるChim↑Pomの歴史とほぼ重なる。それだけに、自分が関わった展覧会ばかりが極私的な意味を持つのだが、今回は断腸の思いでひとつに絞ることにした。「西荻ビエンナーレ」は会田誠・岡田裕子邸を会場とし、3日間の開催、招待制という特別な枠組みの展覧会……というかホームパーティだった。

アート界の人々や友だちが入れ替わり立ち寄り、展示やライブ、イベントに混じってこたつ机で夜な夜な議論を繰り広げた。この展覧会の4ヶ月後にChim↑Pom結成となるわけだが、かくいう展覧会自体もカオスを極めていた。無名の若者が数十人参加し、僕はその取りまとめ役をするいっぽうで包茎手術の皮を「脱・卯城竜太」とホルマリン漬けにして展示した(すぐに取り下げたが)。ほかの参加者たちも無茶苦茶なことをやっていた。後のChim↑Pomメンバーの面々や遠藤一郎、愛まどんな、臼井良平などが会田邸を汚しまくり、トイレからは会田の生徒の伸びた便のオブジェが壁を突き破って隣の部屋に着地するなど、やりたい放題。ライブはベッドをステージにし、プライベートとパブリックの境界は無いに等しかった。今回挙げる3つの展示に共通するのはこの主催者の「器」の意義である。キュレーターであれアーティストであれコレクターであれギャラリストであれ、展示物/作家(個)の容れ物(公)はかくあるべき、というアート従事者としての公共性をはじめて体感したのがこの展覧会だった。

「ライアン・ガンダー:These are the things that I don't understand」(大和プレス・ビューイングルーム、2013)

当時、世界のコレクター100人にリストされていた広島の佐藤辰美さん。そのビューイングルームは住宅地に囲まれた倉庫のような場所にあり、アポイント制だった。ピンポンを押して佐藤さんに会うと、当然のように観客は誰もいないが、広大な空間が広がり、まるでひとつの美術館のようだった。展示作品は多岐にわたり、代表作ばかりが並んでいた。特に印象的だったのは、吹き抜けのホワイトキューブに設置された6つのスプリンクラー・ヘッドから雨が降り注ぐ作品《Take as long as you might take, you might take long》。勢いよく床に響くその雨音に感動したのは、アーティストのアイデアはもとより、これを実現させた佐藤さんの懐の深さだった。ライアンの展覧会はいくつも公的な美術館で観たが、どれもあの空間のうわべだけを観せたような表層性を感じ、広島の個人だけが作家の真髄を示していたことを思い起こす。私的な道楽が美術館以上の芸術実践として意味を持つことを、飛沫の中で痛感した。

「表現の生態系 世界との関係をつくりかえる」内・白川昌生キュレーションセクション(アーツ前橋、2019)

個人的にこの5〜6年は、大正時代のアートへの強い関心と共感とともにある。とくに足立元の著作『アナキズム美術史』は、一般的にまだ知られていない(が次の20年間でアジア有数の重要作家となるだろう)望月桂と黒耀会に光を当てていて、目から鱗だった。

この時代の研究のパイオニアであるアーティスト白川昌生が、アートのエコシステムを人類学的な見地から掘り下げる群馬の展覧会にキュレーターとして参加していると聞き、訪れてみた。正直、驚愕した。まだ「あいちトリエンナーレ2019」の余波があったにもかかわらず、その議論すべてを凌駕するようなインパクトがあった。内容はシュタイナーと大本教という新興宗教らから、ボイスや松澤宥など前衛芸術の文脈を再定義し、群馬の民間信仰にも枝を伸ばすという超絶スピリチュアルなものだった。文盲で大本教の開祖・出口なおの自動筆記や、ボイスの社会彫刻がいかにオカルトか、というキリスト教の解体など、展示されている作品や説明すべてに霊的なアウラを感じた。しかし、美術界きっての知性・白川のキュレーションである。そこには単なる陰謀論的な過激さではなく、政治・社会や芸術を分解し、再構築するような冷静な視点があった。マチュウ・コプランやルアンルパなど、アーティスト実践と一体化したキュレーション実践は新しい動向だろう。が、とはいえあそこまで知的かつ恐ろしいキュレーションは見たことがない。

「表現の生態系: 世界との関係をつくりかえる」会場風景 画像提供:アーツ前橋 撮影:木暮伸也

*「Tokyo Art Beat」20周年を記念するアワード企画と特集を実施! ユーザーみんなで20年間の「ベスト展覧会」を選ぼう。推薦を7月8日まで募集中

*特集「TABの20年、アートシーンの20年」ほかの記事はこちらから

卯城竜太

卯城竜太

うしろ・りゅうた 1977年東京都出身。Chim↑Pom from Smappa!Groupのメンバー。Chim↑Pom from Smappa!Groupは、2005年に東京で結成されたアーティストコレクティヴ。2018年までリーダーを務めた。美学校でのクラス「天才ハイスクール」をはじめ、新宿WHITEHOUSEでのキュレーション、「ダークアンデパンダン」の主催、「ReFreedom_Aichi」など、オーガナイザーとしての活動や執筆をしている。著書に『活動芸術論』(イースト・プレス、2022)がある。 ポートレイト撮影:みなみあさみ